読書

立花隆さんの後悔〜森羅万象への尽きることのない好奇心の代償〜

立花隆さんの著作を貪るように読んだ時期がありました。20代で出会った『宇宙からの帰還』(1983年)を皮切りサイエンスの世界に切り込んで次々と刊行される氏の著作は殆ど目を通したはずです。どこまで理解できたかは甚だ心許ないのですが、日本人ノーベル賞…

ブックレビュー:団鬼六の異色評伝『赦す人』

稀代の官能小説家団鬼六(だんおにろく)の著作を一冊も読んだことはありません。氏の作品といえばかろうじて映画化された『花と蛇』を知る程度です。最近、愛読作家のひとり大崎善生(おおさきよしお)の旧作『赦す人』(2012年刊行)を手にする機会があっ…

眺めているだけで楽しくなる『解剖図鑑シリーズ』

建築専門出版社エクスナレッジ社が刊行する『解剖図鑑シリーズ』をご存知でしょうか。このシリーズの存在を知ったのは2017年の夏。近所のジュンク堂書店をブラブラしていたときに『歌舞伎の解剖図鑑』(絵と文:辻和子)(2017年7月28日初版第1刷)を見つけたと…

14サミッター竹内洋岳さんの『下山の哲学』(太郎次郎社)を読む

2012年に日本人として初めて8000m級14座完全登頂を果たした竹内洋岳(ひろたか)さんは、翌2013年に植村直己冒険賞を受賞した日本を代表するアルピニストのひとりです。『下山の哲学』というタイトルに惹かれて、本書に手を伸ばしました。1984年にマッキンリー…

小説家黒木亮さんの素顔

愛読者のひとりとして、日経夕刊の(全5回)に登場した黒木亮さんのインタビュー記事を興味深く拝見しました。10年前に読んだ『リスクは金なり』(講談社文庫)を慌てて引っぱりだしてきたら、かなり内容が重複していました。すっかり忘却の彼方だったので、読…

『美術の経済』(小川敦生著・インプレス)で知る美術品売買の舞台裏~日本人は美術品を買わない~

最近、立て続けにアートをテーマにした週刊誌や単行本を読む機会がありました。<緩和マネーで爆騰!アートとお金>と題した週刊東洋経済(2021/2/20)は、経済専門誌が特集しているだけあって、市場規模から説き起こすあたり、さすが要を得ています。そもそ…

東日本大震災から10年に思う

2011-3-11 PM2:46 自宅でインテリアコーディネーターと打ち合わせをしていました。2ヶ月後に引越しを控えていたからです。ちなみに、この日は金曜日で六曜は友引でした(曜日の感覚は忘れがちです)。在宅だったので帰宅難民にならずに済みました。経験した…

『翻訳百景』で知る翻訳家という仕事

ダン・ブラウンの世界的ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』の翻訳で知られる越前敏弥氏の『翻訳百景』(角川新書)を読んで、初めて翻訳家という仕事の実相が見えてきました。翻訳は、大別すれば、実務翻訳(又は産業翻訳)、映像翻訳(字…

吉村昭の歴史小説の舞台裏~「父・吉村昭を振り返る」講演録より~

先月下旬、三鷹ネットワーク大学で「父・吉村昭を振り返る」と題した講演会が開催されました。講師は吉村司氏(故吉村昭・津村節子夫妻の長男)。幸い、当選したので会場で聴講(抽選制)できました。興味深い内容でしたので、吉村文学に関心のある方は、3/2…

向田邦子没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」最終日@青山・スパイラル

2021年は、向田邦子さんが旅行先台湾で航空機事故に遭い急逝されてから40年目にあたります。たまたま、武蔵野プレイスから借りてきた『名文探偵、向田邦子の謎を解く』(2011年・いそっぷ社刊)を読んでいる最中にそのことに気がつきました。ちなみに、著者…

柳美里著『JR上野駅公園口』を読んで~上野の杜で覚える違和感の正体~

あまりにも切なく物哀しい物語だったので、頁をめくる手が止まり、なかなか前へ進むことができませんでした。増刷されたばかりの文庫本の帯にはこう書かれています。<全米図書賞受賞!全世界が感動した「一人の男」の物語>これほど本書に似つかわしくない…

ユニクロ創業者柳井正氏の自叙伝にして最良の経営哲学書『一勝九敗』(新潮文庫)を読んで

今年、4年間の大学生活を送った街を久しぶりに訪れ下宿先だった2か所へ足を運ぶと、おんぼろアパートは立派なマンションに様変わりしていました。当時は、風呂なし・共同便所が至極当たり前の時代でした。1Rマンションに住んで優雅な暮らしを謳歌している今…

体験的井上ひさし伝〜「没後10年井上ひさし展-希望の橋渡しする人」展より〜

3連休初日、敬愛する井上ひさしの没後10年展 を見たくて、3年ぶりに世田谷文学館を訪れました。没後30年の「澁澤龍彦 ドラコニアの地平」展以来となります。井上ひさしとの出会いは、文学作品ではなく、NHK総合テレビの人形劇「ひょっこりひょうたん島」。娯…

たかがTシャツされどTシャツ〜『村上T』を読んで〜

最近、村上春樹の小説は進んで読む気がしません。2009年〜2010年にかけて刊行された『1Q84』シリーズを分岐点に、村上ワールドからは遠ざかっています。デビュー当時の瑞々しい作品群はともかく、今では、肩の力を抜いた軽快な語り口のエッセイやマラソン・…

禅語に学ぶ〜「日日是好日」&「独坐大雄峰」〜

今年もあと3ヶ月半、2月下旬から俄かに拡大の一途をたどったコロナ禍は8ヶ月目に突入したことになります。マスク着用マストの不自由なニューノーマルは一体いつまで続くのでしょうか。副作用のないワクチンが一刻も早く開発され、国民に行き渡ってにピリオド…

最高傑作:最新CM 「サントリー天然水」 X 宇多田ヒカル X 国木田独歩

TV番組は専らタイムシフトで視聴することにしています。CM時間帯を「スキップ=CM飛ばし」できればかなりの時間の節約になるからです。ところが、時々、飛ばすのが勿体ないような秀逸なCMに出喰わすことがあります。そんなときは繰り返し再生して楽しむこと…

深田久弥と谷川岳〜下山後の『日本百名山』読み返し〜

8/10の昨日は7回目の「山の日」。五輪特措法で2020年は1日前倒しになったのでしたね。「海の日」が祝日なら「山の日」もあって良いと思います。さて、百名山にアタックする場合、登山の前後どちらかで登山者のバイブル『日本百名山』(1991年刊行の新装版)と…

アフターコロナと吉本隆明の《共同幻想論》

今月の「100分de名著」は吉本隆明の『共同幻想論』(1968年)を取り上げています。戦後最大の思想家と言われる吉本隆明の難解極まる代表作を再読する機会を番組が与えてくれたことに感謝しています。昨年、NHK出版から刊行された『考える教室 大人のため哲学入…

リアルな新英国事情~『ワイルドサイドをほっつき歩け』(ブレイディみかこ著・筑摩書房)を読んで~

長きにわたって沁みついた島国根性のせいでしょうか、日系メディアの海外情報発信力は頗る頼りなく、英国に限らず海外に居住する日本人の暮らしぶりは一向に伝わってきません。比較的感染者の少ない日本に比べ、遠い異国の地に暮らす在留邦人は、オリンピッ…

映画『泣き虫しょったんの奇跡』と『将棋の子』(大崎善生著・講談社文庫)

WOWOWの予告編でプロ棋士瀬川晶司さんをモデルにした映画だと知らなければ、危うくスルーするところでした。『泣き虫しょったんの奇跡』(2018年9月公開)は、現在プロ棋士として活躍中の「しょったん」こと瀬川晶司さんの自伝に基づいています。将棋界では今…

三谷幸喜さんから向田邦子さんへの頌詞

朝日新聞夕刊に連載中の「三谷幸喜のありふれた生活 (#995)」(2020/6/11)を読んで、三谷幸喜さんを幾度も唸らせたという向田邦子さんについて触れてみたくなりました。当代きっての喜劇作家が向田邦子さんを絶賛するとは意外な感じもしますが、連載エッセイ…

連続ドラマW「鉄の骨」〜池井戸ドラマにハズレなし〜

最近、WOWOWのオリジナルドラマ「鉄の骨」(全5話)が完結しました。これまで数々の池井戸潤作品がドラマ化されていますが、失敗作を観たことがありません。映像化によって原作の持ち味が損なわれるケースも散見されるだけに、池井戸ドラマの高視聴率は驚異的…

松本清張再び〜鉄道の旅から映画「ゼロの焦点」へ〜

NHK BSプレミアム新日本風土記スペシャル「松本清張 鉄道の旅」(2020/5/8放送) を見ながら、松本清張は同時代の世相や空気を切り取る才能に長けた作家だなとあらためて感心しました。おまけに、ブックタイトルの付け方が実に上手い。「点と線」、「ゼロの焦…

学位(卒業証書)価値が消滅するアフターコロナの世界

十数年前に『受験の神様』(坂口幸世著・朝日新聞社刊)を読んだとき、深く脳裏に刻まれた蓮實重彦東大総長の卒業式告辞(2000年3月25日)を引用します。「高等教育期間が授与する三つの学位の一つである学士という称号の品質保証期間は、せいぜい三年、長くて五…

NHKテキスト電子版・初体験記~電子書籍リーダーhontoビューアアプリの使い勝手~

緊急事態宣言発出後、大手書店は軒並み休業。やむなく、吉祥寺で唯一営業している小規模書店へ向かいました。NHKテキスト(ラジオ)「実践ビジネス英語」5月号を買うためです。ところが、普段なら平積みしてあるはずの語学テキスト5月号が殆ど見当たりません…

ブックレビュー:『ライオンのおやつ』〜祝2020年本屋大賞2位〜

『つばき文具店』が2017年の本屋大賞候補にノミネートされたとき、本ブログでも取り上げたように自分のなかでは一押しだったのですが、結果は残念ながら4位でした。今回の意欲作『ライオンのおやつ』こそ、大賞1位にと念じていましたが惜しくも2位、1位はBL…

ブックレビュー:『泣くな研修医1・2』

主人公は25歳、心優しき研修医1年目の雨野隆治。通称アメちゃんの出身地は鹿児島県、勤務先は東京下町にある牛之町病という設定です。鹿児島大学医学部卒業後、都立駒込病院で研修した作者中山祐次郎さんの実体験が色濃く投影していることは間違いありません…

<作家・大西巨人>展@二松学舎大学九段一号館

2月29日(土)、<作家・大西巨人-「全力的な精進」の軌跡->展を見ようとと二松学舎大学を訪れました。午後に予定されていた「父親としての大西巨人」と題する息子大西赤人氏の講演は、新型コロナウイルスの感染拡大防止措置の一環で中止になってしまいまし…

ブックレビュー:『アウシュビッツのタトゥー係』

昨年9月に出版された本書は、すでに50ヵ国以上で翻訳され世界的に注目を集めており、2020年の今年、BBCドラマ化が予定されています。原題は”The Tatooist of Auschwitz”、ロンドンで出版されました。著者ヘザー・モリスは、過酷な運命を生き抜いたルドウィグ…

久米美術館をご存じですか?~読む展覧会『米欧回覧実記』と挿絵銅版画~

会期終了間際に、JR目黒駅西口徒歩1分の好立地に所在する久米美術館を訪れました。この美術館をご存じの方は相当な博物館通ではないでしょうか。開館は1982(昭和57)年10月。過去の展覧会記録を遡ると、東京美術学校教授も務めた洋画家久米桂一郎氏(写真下…