読書

『人新世の「資本論」』からマルクスを学ぶ

大学時代、経済の基本くらい学んでおこうと思い、法学部生でありながら「経済原論」2単位を履修し「優」を貰いました。当時はマル経が下火になり、近代経済学が主流になりつありました。教養課程でサミュエルソンの『経済学』を齧った記憶はあれど、「経済原…

雪の妖精「シマエナガ」|小原玲さんの写真集から

スポーツジムのトレーニング・ルーティンは1時間の有酸素運動。その間、ランニングマシンのシートテレビが、退屈しのぎかつ貴重な情報源となります。いつものようにニュース番組を流していたら、見覚えのあるホテルが登場しました。京王プラザホテル札幌では…

天晴れ! 87歳のトレーダー・シゲルさん

日経の新聞広告に釣られて『87歳現役トレーダー シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社刊)を購読しました。「日本のバフェット」と持ち上げられるだけあって、著者の藤本茂さん(以下」「シゲルさん」)は、終身雇用制度に守られながら定年退職を迎えたそこい…

『村上龍 失われた10年を問う』再検証

日経平均の昨年末終値は33464円。コロナ禍が終息し、日経平均は年率28%(S&P500は年率23%)の上昇となりました。それでも、平成元年(1989)12月29日に記録した最高値38915円には届きません。30年以上経っても史上高値を更新できないわけですから、「失われ…

2024年元旦・深大寺の初詣とおみくじ

例年ならお節料理を頂いてからのんびり初詣に出かけるところですが、今年は8時過ぎに神代植物公園第二駐車場に車を滑り込ませました。午後から次男夫婦が年始回りで来宅するからです。駐車場から深大寺まで徒歩で7-8分。東京屈指の古刹・深大寺は、総延長30k…

大人が読みたい絵本『メメンとモリ』

ヨシタケシンスケさんの初の長編絵本を買おうと近所の啓文堂を訪れました。子どもはとうの昔に成人していますから、絵本コーナーに立ち寄るのは数十年ぶりかも。人気絵本作家のはずなのに、絵本コーナーにお目当ての『メメンとモリ』が見当たりません。しば…

朝ドラ「らんまん」完結に寄せて~脇役陣が光った群像劇~

牧野富太郎の生涯を描いたNHK連続テレビ小説「らんまん」が完結しました。最終回のハイライトは、体調が思わしくない妻・寿恵子(浜辺美波)に夫・万太郎(神木隆之介)がようやく完成に漕ぎつけた植物図鑑を万感の思いを込めて差し出すシーンでした。3206種…

<ザイム真理教>がもたらした「失われた30年」

判然としないタイトルに惹かれて、森永卓郎氏の近著『ザイム真理教』に手を伸ばしました。副題には信者8000万人の巨大カルトとあります。経済アナリストのはずの森永氏がいつから畑違いの宗教にまで守備範囲を広げたのかと一瞬戸惑いましたが、すぐに「財務…

公共図書館の図書資料購入ルール|新刊ベストセラー購入の是非

図書館で新刊ベストセラーを借りようとすると何百人待ちというケースがざらにあるようです。千人超えも珍しくないと聞きます。予約を入れたとして一体いつ借りられるのでしょうか?文庫や新書でも新刊なら1000円を超える時代ですから、極力、図書館を利用し…

ブックレビュー|『列車にのった阿修羅さん』(いどきえり著・くもん出版)

劈頭こそ真珠湾攻撃で華々しい口火を切ったものの、太平洋戦争開戦から半年も経たない1942年(昭和17年)4月18日、日本は米軍による本土空襲に遭っています。16機編成の爆撃機隊を指揮したジミー・ドーリットル中佐に因んで「ドーリットル空襲」と呼ばれてい…

21世紀を生き抜くための最良の指南書|『シンプルで合理的な人生設計』のエッセンス(橘玲著・ダイヤモンド社)

著者・橘玲氏の事実上の出世作『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(2002年・幻冬舎)に大いに刺戟・啓発され、起業へと舵を切ったのは2000年代前半でした。安直なハウツー本を思わせるタイトルなのにどうしてこの本に手を延ばしたのか、記憶は定かでは…

日航機墜落から38年

乗客乗員520人の命を奪った日航機墜落事故から38年。奇跡的に4人が生還しました。事故当日のことは今でも鮮明に記憶しています。社会人3年目の独身寮暮らしで、8畳程の狭い居室で翌日未明までテレビに齧りついていました。到着予定時刻を数時間経過しても、…

休刊が決まった<週刊朝日>の思い出

親の代からずっと朝日新聞を購読しています。小学生の頃から、父親が買ってくる<週刊朝日>も熱心に読んでいました。本紙広告欄の太字ヘッドライン「101年間、ご愛読ありがとうございました」を目にして少し目頭が熱くなりました。日本最古の総合週刊誌だっ…

ブック・レビュー:『海外メディアは見た不思議の国ニッポン』(クーリエ・ジャポン編)

クーリエ・ジャポンは講談社が発行するオンライン雑誌です(2016年からは電子版)。様々な海外メディアが配信した日本(日本人)に関する記事を日本に紹介するユニークな手法で存在感を示しています。厖大な配信記事から一定のフィルターをかけてやや特異な…

『災厄の絵画史』(中野京子著)を読んで

見逃して悔やまれる展覧会のひとつが、2017年に上野の森美術館で開催された「怖い絵」展(会期:2017年10月7日~12月17日)です。先月、日経紙のコラム「こころの玉手箱」に連載された展覧会監修者・中野京子さんへのインタビューによると、来場者68万人超え…

一家に一冊|「日本の絶景」本あれこれ

先月、当ブログで低迷を続ける図書館利用について触れました。税金で賄われている図書館を日常的に活用しないのはとてつもない損失だと思っています。経済的ゆとりのない人にとってはまさに知のセーフティネット、万人にとって知の殿堂なのです。そこそこの…

司馬遼太郎生誕100年の<菜の花忌>(後篇)| 22歳の福田青年とノモンハン事件

22歳のとき、旧陸軍戦車第一連隊の将校だった福田定一さん(のちの司馬遼太郎)は栃木県佐野市で終戦を迎えます。司馬さんは生前、自身の作品を「22歳の自分への手紙」だと述懐しています。焦土と化した敗戦国日本の惨状を前にして、福田青年は「なぜこんな…

司馬遼太郎生誕100年の<菜の花忌>(前篇)

2月12日は司馬遼太郎さんの命日<菜の花忌>。この日、午前中に東大阪市の司馬遼太郎記念館(東大阪市)を訪れ、午後から近隣の東大阪市文化創造館で開催された「第26回菜の花忌シンポジウム」に出席しました。最寄駅の近鉄奈良線・八戸ノ里(やえのさと)駅…

2023年に生誕100年を迎える作家|池波正太郎篇

遠藤周作(享年73)、司馬遼太郎(享年72)、池波正太郎(享年67)と並べてみました。共通項をお気づきでしょうか。今年2023年に生誕100年を迎える作家さんたちです。生年の1923年は大正12年。2022年の男性の平均寿命は81.47年ですから、令和基準に照らせば…

英詩 ”Bloom where God has planted you."(『置かれた場所で咲きなさい』)

就職後、早々に会社を辞める若い人が増えています。最近、身の回りでも頻繁にこうした話を耳にするようになりました。知人の息子は30代で3社目。同級生の息子(30代半ば)は、大手広告代理店を皮切りに2度転職し、最近、起業したばかりだそうです。ふたりとも…

新刊『ファーストペンギン』を読んで~成功の鍵は<三方よし>~

日本テレビで放送された水曜ドラマ『ファーストペンギン』は、衰退著しいと囁かれる一次産業のひとつ「漁業」にフォーカスした異色の作品です。タイトルの「ファーストペンギン」とは、群れのなかにあって、天敵のアザラシやシャチが潜む大海に最初に飛び込…

ヤナギランの丘を訪ねて

10月上旬、数年ぶりに1泊2日の日程で尾瀬ヶ原から尾瀬沼へトレッキングしました。湿原植物の宝庫・尾瀬の最大の魅力は、春のミズバショウに始まり、初夏のワタスゲやレンゲツツジ、夏のニッコウキスゲ、秋の草紅葉とテンポの早い季節の移ろいのなかに豊かな…

『樹木希林 120の遺書』から~心に響いたメッセージの抜き書き~

2018年9月15日、女優の樹木希林さん(享年75)が亡くなりました。存在感のある女優さんで、お年を召されてからの立ち居振る舞いが颯爽としていて、ずっと和服姿の似合う素敵な方だなと思っていました。お亡くなりになる1年前に公開された映画『日日是好日』…

”FIRE”本のエッセンス(前篇)

最近、30代から40代の知人女性(株式投資未経験者か投資歴1年前後)数名にタレントの厚切りジェイソンさんが出版した『ジェイソン流お金の増やし方』(ぴあ・2021年11月刊)を勧めたところ、「やっぱりSP500を使ったインデックス投資なんですね」と要領を得…

没後100年目の鷗外忌

文豪・森鷗外は1922(大正11年)年7月9日午前7時に文京区の自宅で病死します。享年60でした。軍医総監にまで上り詰めた鷗外は、自らの死期を悟り、死の3日前に遺書を口述し親友・賀古鶴所(かこつるど)に筆記させました。自宅「観潮楼」のあった場所(当時:千駄…

『朝日新聞政治部』(鮫島浩著・講談社)を読んで〜落日の新聞ジャーナリズム〜

紙媒体の新聞の消滅はもはや時間の問題です。この5月に出版されたばかりの『朝日新聞政治部』を読んでそう確信しました。物心ついた時分から長年朝日新聞購読してきた者として、天下の朝日新聞が今や権力に阿る御用新聞に成り下がったことを痛恨の思いで受け…

英語のワンフレーズ褒め言葉に学べ

最近、英語教育学者として知られる鳥飼玖美子さんの著書『話すための英語力』(講談社現代新書)を読む機会があって、英語にかぎらずコミュニケ―ションを図ることの難しさを再認識させられました。鳥飼さんは、1969年7月、アポロ11号が史上初めて月面着陸を…

「観天望気」の心得 ~『すごすぎる天気の図鑑』はぜひとも読んでおきたい良書 ~

琵琶湖疎水のトンネル出入口に設置されている扁額には、明治の元勲ら先人の揮毫で疎水完成を讃える含蓄深い言葉が刻まれています。そのひとつ、第1トンネルに掲げられた扁額に揮毫したのは初代内閣総理大臣・伊藤博文です。千変万化する風光は素晴らしいとい…

83歳・堀江謙一さんのヨット単独無寄港太平洋横断から学ぶこと

6月4日、83歳の堀江謙一さんが単独無寄港で太平洋横断に成功し紀伊水道のゴールに戻ってきました。出発地は米サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ下、距離にして約8500km、69日を要した長い航海でした。80歳を超えてもやまない挑戦心と情熱には脱帽…

そう来たか「地球の歩き方」(国内版シリーズ第二弾は東京多摩地域編)

海外渡航が制限されるようになって3年目、旅行代理店、航空会社、鉄道会社、ホテル、旅館等、旅行業界の主だったプレーヤーは例外なく窮地に立たされています、考えてみれば当然ですが、海外旅行向けガイドブックの需要もないに等しい状況なのでしょう。そう…