「韓流村」 VS 「カカクコム」気になる控訴審の行方

6月16日、焼肉チェーン店「韓流村」(店名は『KollaBo』)がグルメサイト「食べログ」を運営するカカクコム(2371)を相手どって独占禁止法違反だと訴えた裁判の判決が下されました。東京地裁は、「食べログ」のアルゴリズム運用に独占禁止法違反があったと認め、カカクコムに対し3840万円の損害賠償を命じています。カカクコムは判決は不当だとし、即日、東京高裁に控訴しました。勝訴した原告「韓流村」も地裁判決を肯定的に受け止めながらも、アルゴリズムの運用差し止めが認められなかったことを不服として控訴審で争う構えです。一流企業・カカクコムの顧問弁護士にしてみれば、零細飲食店の訴えに屈したままでは、プライドが許さないのでしょう。

事の発端は2019年5月21日に遡ります。突然、焼肉店『KollaBo』21店舗中19店舗の「食べログ」評点が、最大0.45、平均で0.17下落したのです。従業員の指摘を受けて、社長は同じタイミングで同業他社にも似たような評点下落があったことを探り当て、チェーン店の点数を一律に下げるアルゴリズム変更があったのではないかと推測、訴訟提起に及びます。

今や、Googleに代表されるデジタルプラットフォーマーDPF)は政府や自治体さえ制御不能な巨大な力を掌握しています。こうなると、司法が中立・公正な立場でDPFの暴走を牽制していくしかありません。昨年11月、EU司法裁判所が画期的な判決を下しています。Googleが自社ショッピングサイトを他社商品比較サイトよりも有利な位置に示したのは欧州競争法(日本の独占禁止法)違反だと認定したのです。EU司法裁判所はGoogleに対して邦貨換算3200億円の巨額賠償を命じました。

法律的に見て、本件は前例のない裁判です。デジタル社会の出現で生成した新しい争点ですから、参考にすべき判例もありません。おまけに、グルメサイトの巨人「食べログ」相手の訴訟提起です。先ず、独占禁止法違反を問う裁判を提起した社長の度胸と執念に敬服しないわけにはいきません。物損事故をめぐってやむなく損害賠償請求を起こした自身の経験からすれば、時間と金のかかる民事裁判(損害賠償請求)ははっきり言って不毛です。極論すれば、儲かるのは原告と被告の代理人弁護士だけです。

原告に圧倒的に不利な状況下、「韓流村」の社長が勝訴判決を勝ち取ってくれたお蔭でカカクコムの評点で一喜一憂する飲食店経営者に一条の光がもたらされたことは間違いありません。アルゴリズムを一方的に変更することが「優越的地位の乱用」を禁じた独占禁止法に違反するとした判旨は、先駆的かつ画期的です。しかし、一審判決はもう一歩踏み込んでも良かったはずです。やはり、アルゴリズムを評価対象者に一切開示しないのは不当な気がします。常に厳しい競争環境で凌ぎを削る飲食店を商材にして莫大な利益を上げるDPFには、厳しいルールを課すべきだと思うのです。控訴審ではどんな判断が下されるのでしょうか、注目していきたいと思っています。「韓流村」に同調して他の飲食店も原告に加わり集団訴訟にでも発展すれば、一層面白い展開になるかも知れません。

検索すれば必ず目にする「食べログ」評点が気にならないはずはありません。分かりやすい5段階評価ですから、3のお店より3.5のお店に行こうと思うのは人情です。しかし、自分の味覚を信じないで評点だけを拠り所に店の良し悪しを判断するのは「食べログ」教信者のすることです。何より重要なことは「食べログ」の評点を鵜呑みにしないで、自分自身の五感を駆使して判断することです。

コロナ時代の都立霊園募集状況~時代と共にお墓のかたちも変わります~

2022(令和4)年度の都立霊園の使用者募集のあらましが明らかになっています。東京都のHPによれば、募集スケジュールは以下のとおりです。

申込書配布:令和4年6月15日から7月4日まで

申込期間:同上

抽選日:同年8月18日

使用許可:同年12月

都立霊園は8箇所あり、使用者数は約29万人、約130万体が埋葬されていると東京都建設局が公表しています。冒頭の無縁墓所を整理し新たな墓地を供給するこの事業は、故・石原都知事が始めたものです。自分も使用者のひとりです。4つある区部霊園は「霊園」と「公園」が共存する空間になっており、特に人気も高く、抽選制が導入されています。2003年に始まった都立霊園公募は今年で20回目を迎えます。2010年に宿願叶って「青山霊園」に当選したときの競争率は12倍でした。

この10年でお墓に対する考え方が様変わりしたように思います。第12回「お墓の消費者全国実態調査」(2021年)によれば、最重要視するのはお墓の種類、次いで自宅から霊園までのアクセス、(お墓や永代使用料の)金額が重要視されています。お墓の種類では、樹木葬が46.4%で一般的なお墓の26.5%を大きく引き離しています。こうした趨勢を受けて、都立霊園に対する需要も低下しているかと思いきや、依然、人気は根強く区部霊園の募集倍率は高止まりしています。2021年の青山霊園の場合、小規模区画(1.55~2.00平米)で17.1倍、谷中霊園では8.8倍でした。交通アクセスの良さと年間管理料の安さが、都立霊園人気を下支えしているのでしょう。まだまだ供給は少ないようですが、ペットと一緒に入れるお墓を探す人が増えているのも少子化・ペットのコンパニオンアニマル化の流れを裏付けています。供養の方法も多様化し、散骨や手元供養(遺骨をアクセサリーにして持ち歩く)を選ぶ遺族も増えています。今年2月に亡くなった石原慎太郎さんは、ヨットマンらしい遺志を家族に伝えていたので、海上散骨式が行われました。

生前に葬送の「かたち」をはっきりと家族に伝えておくことが、終活の最重要事項ではないでしょうか。

日帰り温泉「秋川渓谷 瀬音の湯」の評価は「5つ星」

ミシュランガイドのレストラン最高評価は「3つ星」、ホテルの場合にはフォーブズやミシュランは「5つ星」を最高評価としています。日帰り温泉にも似たような評価システムがあったら便利なのにと常々思っています。プレートがぶつかり合う日本は世界でも屈指の火山大国ですから、日本中至る所に火山性温泉があります。誰もが知る草津温泉別府温泉のような名湯がその一例です。最近はボーリング技術や電磁探査など温泉調査技術の進化によって非火山性の温泉も増えています。地下を100m掘ると約3度ずつ地温が上昇しますから。地層により難易はあるにせよ、1000m以上掘り進めば温泉(場合によっては海水を含む)が湧出します。今や、数の上では、非火山性温泉が火山性温泉を上回っているのです。評価の確立した名湯めぐりは時間もお金もかかります。温泉好きとしては、日常的に利用できる日帰り温泉に独自の評価尺度を設けて勝手格付けして楽しんでいます。

  • 泉質
  • 風呂の種類(内湯、露天風呂、炭酸泉、ジャグジー、サウナ等)
  • 交通アクセス
  • 駐車場の規模
  • 浴場スペース
  • 施設の充実度・清潔度(食事処・給水器・ロッカー等)
  • 利用料

まだ6月だというのに今週末の東京都心は2日連続の猛暑日、観測史上初の出来事だそうです。25日の土曜日は雲ひとつない青空が広がる行楽日和だったので、ヤマスタが紹介する「東京裏山 秋川渓谷散策コース」を歩くことにしました。ヤマスタのマップはご覧のようなあっさりしたもので頼りになりません。あきる野市が作成・配布する小冊子を観光案内所で入手してあったので、これを使いました。

最高気温は36度、炎天下にJR武蔵五日市駅を起点に約15km歩いた結果、疲労困憊。夕方、登山者やハイカーに人気の日帰り温泉秋川渓谷 瀬音の湯(せおとのゆ)」(東京都あきる野市)に立ち寄りました。最寄りの「十里木バス停」から徒歩10分、あきる野市のランドマーク「石舟橋」を渡った先にあります。周辺環境に調和した和モダンの施設を見てひと目で気に入りました。受付待ちの行列に加わり待つこと15分余り、入場してみれば期待を遥かに上回る温泉でした。自慢の泉質はpH10.1のアルカリ性単純硫黄温泉。内風呂は(加温)源泉掛け流し、正面開口部は全面ガラス張りで秋川渓谷の木々の緑を巧みに借景としています。露天風呂(循環・塩素入り)に出れば梢に手が届きそうです。温泉総選挙「うる肌」部門全国一の肌触り滑らかな泉質は名湯顔負け、総合評価は掛け値なしの「5つ星」です。特筆すべきは、温泉内部で使われた多様な石材と徹底的にこだわったインテリアです。内湯のゆとりたっぷりの洗い場床には高級石材の大判・十和田石(緑色凝灰岩)、浴槽には御影石が使われています。十和田石は水に濡れると淡い緑色に変化します。露天風呂や足湯は鉄平石の乱形材貼りと目を楽しませてくれます。水風呂の温度が高めだったのが残念ですが、閉鎖的になりがちなサウナ室に大きな開口部を設けた点は高く評価します。百聞は一見に如かず、写真を幾つか紹介しておきます。

全国見渡しても、こんな素晴らしい日帰り温泉は数えるほどでしょう。利用料は滞在3時間まで900円です。「秋川渓谷 瀬音の湯」の経営母体はあきる野市です。開業は2007年4月15日、総工費25億円を投じた同市の英断は天晴れと言うしかありません。

日本建築学会賞を受賞した「住宅遺産トラスト」とはどんな活動をする団体なのか?

キラリと光る人物を紹介する朝日新聞の連載「ひと」欄に注目しています。人物紹介と聞くと有名人を想像しがちですが、この連載の強みは知られざる有為の人物を発掘してくる点にあります。今月であれば、高知県須崎市ゆるキャラ「しんじょう君」を日本一に導きふるさと納税を200万円から21億円に増やした地方公務員や、楽器と義手を融合させたギターや管楽器の製作者など、スポットライトが当たりにくい分野で活躍されている方を取り上げています。

6月23日付け「ひと」欄は「住宅遺産トラスト」の専任・事務局長を務める吉見千晶さんを取り上げました。記事を読んで、初めて「住宅遺産トラスト」なる団体の存在を知りました。具体的にどんな活動をしているのか気になってHPを確認すると、設立趣旨が次のように紹介されていました。

★様々な事情により、貴重な住宅建築がひっそりとその姿を消しつつあります。どんなに優れた建築であっても、個人の所有である点で住宅の継承はきわめて難しいテーマです。優れた住宅を失うことは、貴重な技術や空間を失うにとどまらず、そこで育まれ続けられてきた住まい方、地域の記憶景観を失うことでもあるでしょう。私たちは、こうした価値ある住宅建築とその環境を「住宅遺産」と呼びます。「住宅遺産」を愛し、その継承に関心を寄せる多くの方々とともに、これを後世に継承するための仕組み作りを目指して、「一般社団法人住宅遺産トラスト」を設立いたしました。

世界的ピアニストだった故・園田高弘邸が実業家に継承されたことをきっかけに、これまで14軒の新しいオーナーへの継承が実現したのだそうです。その多くは有名建築家が設計したもので、芸術的文化的価値ある住宅の継承が優先されている印象です。日本建築学会賞(2022年・「業績」)を受賞したのは、個人住宅に着眼した点が評価されたのでしょう。大変有意義な活動だと思いつつ、内心、アンビバレンツな感情を抱いています。極論すれば、老朽化した住宅を後世に伝えていくことの限界を再認識し、デジタル映像を残すなど別の手段で代替すべきだと考えています。

かつて、住宅用地を探していた時期、日本モダニズム建築の旗手と呼ばれた建築家・前川國男が設計した私邸(目黒区・駒場東大前)が売りに出されていたので、現地を見に行ったことがあります。恐らく、売主はル・コルビュジエの弟子であった著名建築家・前川國男に依頼して注文住宅を作ったのでしょう。「江戸東京たてもの園」(小金井市)に現存する前川國男自邸を彷彿させる外観だった記憶があります。売主にしてみれば、思い入れのある自宅を志を同じくする誰かに継承して欲しかったのでしょう。ところが、どんな有名建築家の建てた家であれ、築20年以上超の木造住宅など住めたものではありません。間取り、水回り、気密性・・・どこを切り取っても現代の暮しに不便な点ばかりですから、大規模なリノベーションありきということになります。大規模なリノベーションと新築を天秤にかけた場合、コストや住み心地の点で、間違いなく後者に軍配が上がるはずです。結局、この住宅は取り壊され、更地で売却されてしまいました。

古きよき英国の田園景色が広がるコッツウォルズには築100年以上の古民家がたくさん存在します。しかも、英国では古い家ほど価値があると看做され高値で取引されています。躯体が劣化しにくい煉瓦や石で造られているからです。住人は、古い家の歴史に敬意を払いながら、ライフスタイルにあった家をめざしてリノベーションを重ねていくのです。英国の住宅は、あくまで住み続けるところに価値を見出すので、古くなっても「住宅遺産」にはなりません。よほど特別な理由でもないかぎり、人の息遣いが消えた住宅には価値はないと自分は思うのです。寧ろ、地震の多い日本ではスクラップ&ビルドの住宅の方が理に叶っています。住まいへの意識が違うのは風土の違いと割り切った方が良さそうです。日本の木造住宅の法定耐用年数は22年。RC造りでも47年です。ハウスメーカーの典型的な建売住宅が安普請になるのも謂わば当然です。

そもそも、木造住宅の保存に多額の費用を投じるのは著しく経済合理性に反しています。2022年度の国のプライマリーバランスは13兆円の赤字。財政難に苦しむ国や地方自治体には文化財保護を名目に木造住宅の維持・保存に税金を投入する余裕などないのです。現実的な解決策は、企業経営に成功し巨額の富を蓄えた超・富裕層に資金を拠出してもらうことです。米国で盛んな富裕層による寄付やクラウドファンディングを利用する手もあります。「南禅寺界隈別荘群」と呼ばれる京都・南禅寺エリアの大庭園付き邸宅は、時代と共に所有者が変わり、今日まで受け継がれてきました。ニトリが取得した「對龍山荘」やユニクロの柳井CEOが個人で購入した「洛翠」がその一例です。建物の維持管理に加え、一流の庭師さんを入れて広大なお庭を維持するには一千万単位の費用がかかります。残念ながら、残したい住宅があれば一流企業やビリオネア篤志家に委ねるしかないのです。

九州の屋根「くじゅう連山」を歩く

豊後富士こと由布岳登頂の翌日、九州本土最高峰・「くじゅう連山」(最高標高:1791m)をめざして早朝4時半に出発、登山口のある牧ノ戸峠(1330m:やまなみハイウェイの最高地点)へ向かいました。由布岳山麓の宿から登山口までクルマで約1時間。曇りのち雨の天気予報を恨めしく思いながら、登山口駐車場にレンタカーを滑り込ませると、すでに何組かの登山者らがストレッチをしていました。ここで駐車場が確保できなければ、その日のスケジュールを大幅に見直さなければならないところでした。前日の由布岳然り、ミヤマキリシマ(命名者:牧野富太郎博士)が最盛期を迎えるこの時期、登山口に隣接する駐車場はどこも争奪戦なのです。

「くじゅう連山」には、「九重山」や「久住山」といった異なった表記があります。深田久弥の『日本百名山(新装版)』には「九重山」(1788m)とあります。深田久弥はこうした山名をめぐる地域の争いについて詳しく言及しています。Wikiには「九重山」は大分県玖珠郡九重町竹田市久住町の境界に位置する山々の総称(地質学上の呼称)にして、最高峰は九州本土最高峰でもある中岳 (標高1,791m)とあります。さらにややこしいのは、牧ノ戸峠のある九重町を「ここのえまち」と読ませることです。長者原ビジターセンターHPの説明が一番腑に落ちたので、「くじゅう連山」の標高一覧と共に掲載しておきます。

「くじゅう連山」は、九州本土最高峰の中岳をはじめとする久住山大船山など1700m級の山々が連なり、「九州の屋根」とも呼ばれています。 くじゅう地域は、大分県に位置します。 「くじゅう連山」はくじゅう地域の山々の総称であり、「久住山」は「くじゅう連山」の山のひとつです。 一帯は「阿蘇くじゅう国立公園」に含まれています。

ホッと一息ついて登山の準備に取り掛かったとき、海援隊の歌詞♫ <思えば遠くへ来たもんだ ここまで一人で来たけれど 思えば遠くへ来たもんだ この先どこまでゆくのやら>がふと頭に浮かんできました。東京から大分まで直線距離にして800km弱、飛行機とレンタカーを乗り継いでやって来た九州は思ったよりずっと遠いエリアでした。「やまなみハイウェイ」が開通していなければ「くじゅう連山」への道程は鉄道に頼るしかなく、さらに遠い存在だったことでしょう。今回の山行は、大分県別府市九州横断道路入口から熊本県一の宮を結ぶ全長58kmの「やまなみハイウェイ」のお蔭なのです。

低くどんよりと垂れ込める雨雲を見上げ空模様を確認したら、登山スタートです。コース案内どおり、コンクリート舗装された序盤の急坂で息が上がります。雨が降り出す前に先を急ぐことにしました。曇天で思ったほど気温が上がらず、ベースレイヤーに半袖1枚の薄着では次第に身体が冷え込んできました。西千里ヶ浜の中間地点から一気に「星生山(ほっしょうさん)」の稜線に出たところで、ザックに忍ばせておいたユニクロ製「ウルトラライトダウン」を着用することに。初めて登山で使用しましたが、「くじゅう連山」クラスの山であれば、保温効果の点で十分なスペックだと感じました。値段が手頃な上に228gと軽量ですから軽登山の装備品としてカウントできそうです。「星生山」から星生崎までの尾根歩きは、眺望に優れ、牧ノ戸峠~久住山往復コースのハイライトではないでしょうか。

星生崎基部からガレ場を下れば久住山避難小屋(トイレ併設)です。10分程度のトイレ休憩を挟んで、久住分れから岩場を超えると「くじゅう連山」主峰「久住山」山頂に到着です。山頂でスマホ撮影をお願いした青年も東京からの登山者でした。長崎市出身にもかかわらず一度も「くじゅう連山」の盟主・久住山に登ったことがなかったので遥々やって来たのだそうです。北へ視線を向けると、雲海の先から(前日登頂したばかりの)双耳峰・由布岳が尖ったてっぺんを見せてくれました。iPhone 11 Proの望遠カメラを使って撮影したのが次の写真です。


↑ 中岳中腹から火口湖・御池(みいけ)と久住山を望む

ここまで来たら「くじゅう連山」最高峰・中岳をめざすしかありません。御池(みいけ)南側を経由して中岳(1791m)まで一気に攻めました。中岳山頂に着くと雨脚が強まり、とうとう雨具の出番です。山頂にいたグループはいつの間にか姿を消し、久住山避難小屋まで戻ると、複数のグループ登山者が下山を始めていました。西千里ヶ浜まで戻ってくると、雨天にもかかわらず、真新しい登山ウェアに身を包んだグループ登山者と何組もすれ違いました。ハイシーズンの「くじゅう連山」の人気ぶりを見せつけられた格好です。下山を急いだせいで、11時過ぎに登山口に戻ってこれました。今回は、時間的制約から「くじゅう連山」の一角を歩いたに過ぎません。次は、長者原登山口からスタートして、坊ガツル湿原を経由して法華院温泉山荘に宿泊、「三俣山」・「平治岳(ひいじだけ)」・「大船山(たいせんざん)」に登ろうと早くも意気込んでいるところです。

★漂泊の詩人・種田山頭火の代表作のひとつ「分け入っても分け入っても青い山」は、熊本の馬見原から高千穂の三田井への道中に詠まれたものです。このあたりは「九州の背骨(脊梁)」と呼ばれ、九州中央山地(国定公園)に含まれます。

「結婚」の語釈〜『持続可能な恋ですか?』最終話より〜

上野樹里さん主演のTBSドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』の最終話を視聴しました。最近の恋愛ドラマとは一線を画した味わい深い結末に心揺さぶられました。樹里さん演じる杏花さんの父親・林太郎(松重豊)は、辞書編纂を生業とするフリーの日本語学者。妻に先立たれた林太郎は、適齢期のひとり娘・杏花とマンションで2人暮らしという境遇。生活力を欠く自分のために娘の婚期が遅れているのだと自覚する林太郎は、娘の結婚を後押ししようと結婚相談所を訪れ、ふたりの奇妙なダブル婚活が始まります。

予定調和のハッピーエンドもさることながら、注目すべきは日本語オタクの林太郎。街で新しい言葉に出会うたびに嬉々として一眼レフで撮影したりメモを取ったりします。聞き耳を立てられた女子高生が不気味がるのも無理はありません。2012年に本屋大賞に選ばれた三浦しをんさんの『舟を編む』の主人公馬締君と重ね合わせながら見ていました。老境を迎えつつある林太郎が言葉と格闘する姿はとてもエネルギッシュでチャーミングそのものでした。

杏花と林太郎が最終的に選択した結婚は、バツイチ子連れ男性晴太(田中圭)との結婚であり、整形外科医・日向明里(井川遥)との年の差婚でした。ハンディを背負ったふたりの男性は、好きな相手に本音をぶつけることが出来ず、彼女らの人並みの幸せを願って一旦は身を引く決意をします。最終回、そんな紆余曲折の末にたどり着いた「結婚」に、こんな素敵な語釈が与えられます。林太郎の職業人としての真価が見事に発揮された瞬間です。

「結婚とは愛し合う他人同士が分かり合いたいと願い、共に年を重ね、互いの変化を慈しみ、それでもなお分かり合えないことを知る営み。古来、人類が繰り返してきた永遠に続く愛情への無茶な挑戦」

(無茶で)無謀な挑戦・・・少し長い気もしますが、結婚の本質を見事にたぐり寄せた脚本家の手腕に脱帽です。

英語のワンフレーズ褒め言葉に学べ

最近、英語教育学者として知られる鳥飼玖美子さんの著書『話すための英語力』(講談社現代新書)を読む機会があって、英語にかぎらずコミュニケ―ションを図ることの難しさを再認識させられました。鳥飼さんは、1969年7月、アポロ11号が史上初めて月面着陸を成功させたとき、サイマルの村松増美さんと共に生中継を担当した同時通訳者の草分けでもあります。

異文化コミュニケーションを専門とされる鳥飼さんは、コミュニケーション能力とは、(1)文法能力、(2)談話能力、(3)社会言語能力、(4) 方略的能力の4つの要素で構成されると言います(カネールの分類)。(4)の方略的能力(strategic competence)は、理解できなかったときに聞き返したりする対応能力のことです。コミュニケ―ションを豊かに持続させる力と言い換えてもいいでしょう。会話が行き詰まってしまう原因のひとつは(4)の方略的能力が足りないせいです。小学生がリンゴを意味する英単語を思い出せないとき、リンゴの絵を描いて相手に伝えようとすれば、状況に即した対応と言えます。身振り・手振りに代表されるボディ・ランゲージも有効な手段になるかも知れません。

以前、勤務先の外資系金融機関NY支店で社内選抜MBAコースを履修していたとき、参加者全員のプレゼンがビデオ撮影され、講師からコミュニケーションの指導を受けた経験があります。そこでは、表情豊かに頷いたり受け手それぞれにアイコンタクトを欠かさないなど、コミュニケ―ションを円滑に図る術を徹底的に伝授されました。ビジネスにおいては、ロジカルな説明と情緒や感情に訴えるコミュニケーションスキルが相俟って、はじめて商談成立に発展するのです。

(2)の談話能力はスモールトークとも言われます。挨拶代わりの雑談は、相手とコミュニケーションを図る上で欠かせない構成要素です。落語でいうところの枕ですね。日本人ビジネスマンの談話能力は欧米人に比べて著しく劣るように思います。最大の要因は話題(教養=綜合知)が乏しいこと。ゴルフやサッカー(昔はプロ野球)が話題に上るのが精一杯ではないでしょうか。歴史、宗教(聖書)、美術、舞台芸術、食文化などスモールトークに欠かせない教養は、最低限身に着けておきたいものです。

日本の大学教育の水準は世界的に見て決して高くありません。その上、大学卒業と同時に学びから遠ざかる人が多いように思います。従って、社会人になってからどのような知識とスキルを身につけるのかで、その後の人生に大きな差が出てしまいます。一流ビジネスパーソンとしてのコミュニケ―ションスキルの取得もそのひとつです。コミュニケ―ションは会話だけはありません。母語はもちろんのこと、外国語で無駄のない正確な文章を書く力も磨いていく必要があります。

言語によるコミニュケ―ション能力は低下の一途を辿っているように思えてなりません。若い女性が「かわいい」の一言で済ませてしまうのは、明らかなボキャ貧(死語?)、言語運用能力低下の証です。一方、アメリカ人ビジネスパーソンと会話すると、矢継ぎ早にワンフレーズ褒め言葉が飛び出します。例えば、来日したゲストを隅田川岸の料亭に連れて行ったとしましょう。ライトアップされた池には錦鯉が悠々と泳いでいます。遠くからは打ち上げ花火の音が聞こえます。真夏の江戸情緒を感じて貰おうという寸法です。床の間を背にしたゲストからは、”beautiful”、"excellent "、 "gorgeous"、 "fantastic"、 ”marvelous”、 "terrific"・・・これでもかとワンフレーズ褒め言葉が発せられるはずです。日本語にはこれに代わる適当な褒め言葉が見当たりません。日本人のお礼の言葉がそっけないと言われる所以です。

アメリカゲストが帰り際に日本人からプレゼント(例えば「江戸風鈴」)を受け取ったとします。きっとこんな会話になるはずです。

”May I open it now ? " (中身をいま開けてもいいかな?)

"Oh, its unbelievable. This is exactly what I wanted !! " (えっ、信じられない。これ、欲しいと思ってたものなんだよ!)

歯の浮くようなワンフレーズ褒め言葉は、会話を弾ませる着火剤のようなものです。たとえ短くても、魂のこもった言葉であれば自然心が動きます。ユーチューバ―のなかには視聴者のハートを鷲掴みにするスーパーヒーローもいることは認めます。他方、いい歳したおじさんやおばさんが、LINEスタンプ「いいね」を押してコミュニケ―ションとったつもりでいるのは頂けません。薄っぺらな会話しか成立しないスマホの先の誰かさんに閉口している自分は、ないものねだりの少数派なのでしょうか。