富士山ビュースポット(後編)|黄昏時の絶景富士と翌朝の野焼き

先週土曜日、東京都心では気温がぐんぐん上昇し、今年初の夏日となりました。この日、アーリーチェックインした山中湖畔のキャンプサイトも、初夏を思わせる陽気に包まれました。終日、澄み切った青空が広がり、夕暮れ時まで雲一つない富士山の壮大な景色を心ゆくまで堪能できました。気温が上がると山頂付近には雲が湧きやすいものですが、この日は惚れ惚れするような絶景が間断なく続いたのです。


キャンプサイト付近の湖畔から富士山を望む

山中湖の湖面標高は982m。夕方17時過ぎ、キャンプサイトから「交流プラザきらら」まで波打ち際を散策しながら、傾き始めた太陽を構図に収めて何度もシャッターを切りました。「交流プラザきらら」に近づくと美しく整備された木道が現れ、そこには夕日を眺めようと大勢の人々が集まっていました。


日没時の山中湖と富士山

折り返し地点でふと目をやると、太陽はすでに富士山の裾野まで降りてきており、18時過ぎ、日没の瞬間にも立ち会うことができました。秋から冬の早朝ならいざ知らず、終日その全貌を望める日は、年間を通しても稀ではないでしょうか。ちなみに、静岡県富士市が1990年から継続している観測記録によれば、2025年の1年間で、午前8時の観測時に「全体が見えた」のは136日、「一部が見えた」のが95日、「全く見えなかった」のが134日だったそうです。

翌朝、挽き立てのコーヒーを片手に富士山を眺めていると、視界に怪しげな黒煙が幾筋も立ち昇っていました。自衛隊の北富士演習場で実戦さながらの演習が始まったのかと思いきや、ネット検索してみて「野焼き」が行われているのだと知りました。初めて目にする光景です。地元で「火入れ」と呼ばれるこの行事は、演習場の「入会権」を持つ周辺自治体の住民が、土地利用の権利を維持・主張するために毎年この時期に行う伝統的な営みなのだそうです。前日、屋外スピーカー(防災行政無線)から流れていたものの、内容を全く聞き取れなかったメッセージ。実は、この「火入れ」を告知する放送だったようです。


(出所:YBS山梨放送)

今年の火入れでは、3つの会場合わせて約1,900ヘクタールもの下草が焼かれました。その灰は土に還って肥料となり、山菜や野草の芽吹きを助けるといいます。前日に登ったばかりの明神山一帯にも火が放たれました。富士山周辺の草原の生態系を維持するために欠かせない「火入れ」の効用を深く知る機会となりました。

富士山ビュースポット(前篇)|「山中湖明神山パノラマ台」からショートハイク

快晴に恵まれた先週末、早朝に自宅を出発して山中湖へ向かいました。富士五湖の中で最大の面積を誇り、富士山に最も近い山中湖を訪れるのは久しぶりのことです。都内から山中湖までは、渋滞さえなければ約1時間30分、距離にして約100km。思い立ったが吉日、山中湖畔は都心から気軽に出かけられる絶好の行楽スポットです。

目指す目的地は、2024年11月にリニューアルオープンした「山中湖明神山パノラマ台」。午前7時30分過ぎ、わずか10台ほどの駐車スペースになんとか滑り込むことができました。


「山中湖明神山パノラマ台」の空撮写真(出所:一般社団法人山中湖観光協会)

リニューアル前はススキが生い茂る素朴な場所でしたが、見違えるほど素晴らしい展望デッキに生まれ変わっていました。まずは空撮写真(上)をご覧ください。


メタルメッシュ製チェア


テラス席

雲一つない絶好のコンディションの下、眼前に冠雪した富士山、眼下には山中湖が広がります。さらに富士山の裾野の先には、北岳をはじめとする南アルプスの山々を一望できる圧巻のスポットです。デッキには背凭れのあるメタルメッシュ製のメインチェアに加え、テラス席も配置されています。テラス席でお弁当を広げ、食後にホットコーヒーでも嗜めば、至福の時間を過ごせそうです。曲線を巧みに生かした斬新なデザインと相俟って、山中湖随一の展望台となっていました。一番奥には円形のフォトスポットも設けられており、アジア系の旅行者が代わる代わる記念撮影に興じている姿が印象的でした。


ルートマップ(パノラマ台から三国山)


明神山山頂から富士山を望む

パノラマ台から標高1,291mの「明神山(鉄砲木の頭)」までは30分足らず。好天に誘われ、山頂までのショートハイクを楽しみました。今回は見送りましたが、明神山から三国山(1,384m)を経て篭坂峠へ抜けるのが、全長9kmの「三国山ハイキングコース」です。次回はマジックアワーや、フジアザミやフジテンニンソウなどの山野草が山道を彩る初秋に再訪したいと思います。

近未来シティ「高輪ゲートウェイシティ」を俯瞰する(後篇)|小川珈琲のラボ誕生

グランドオープンしたばかりの高輪ゲートウェイシティへ足を運んだ大きな理由のひとつは、「THE LINKPILLAR 2」の2階に誕生した京都・小川珈琲のコーヒーラボで、特別誂えの一杯を味わってみたいと思ったからです。

この施設「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪」は、ワンフロアすべてを使い、コーヒーをはじめベーカリー、ショコラ、デリカテッセン、ジェラートなど、12のラボラトリーが多彩な飲食サービスを展開するという、これまでにない趣向となっています。

訪れてみると、いくつも行列ができていて、どこに並べばよいのか戸惑います。厨房スタッフに尋ねると、コーヒーの列へ誘導され、20分ほどでテーブル席に案内されました。広々とした空間の中心に客席が設けられ、それを取り囲むようにオープンキッチンが配置されています。

注文はQRコードを読み取るスタイルですが、テーブルには酸味・苦味、ボディの強弱などを示したコーヒーチャートも置かれていました。豆を選択し、スタッフに抽出方法と合わせて口頭で伝えます。

開業直後の賑わいもあり、提供まではさらに20分ほどかかりました。今回選んだのは、小川珈琲が誇る「エアロプレス」による抽出です。空気の力を利用して淹れられたコーヒーは、加圧の効果もあってか、バランス良く甘みが引き立っているように感じられました。ボダムの「フレンチプレス」とほぼ同じ原理です。欲を申せば、もう少しカップの容量があったら、より満足感が高まったかもしれません。

スタイリッシュなインテリアは、混雑の絶えないスターバックスや、クラシックな喫茶店とは一線を画した設えで、近未来シティに殴り込みをかけた小川珈琲の並々ならぬ挑戦心を感じさせます。一見するとフードコートのような佇まいなので、静寂や落ち着きを重視するコーヒー党には敬遠されるのかもしれません。けれども、新しいコーヒー体験の場としては非常に刺激的かつ魅力的です。

自宅からはドア・トゥ・ドアで1時間前後かかるため、頻繁に訪れるのは難しいのですが、もし近所にこんな施設があれば、毎日でも通ってしまいそうです。挽き立てのコーヒーの風味を愛するコーヒー党にとって、大変嬉しいラボの誕生と言えるでしょう。

近未来シティ「高輪ゲートウェイシティ」を俯瞰する(前篇)

先月28日、JR高輪ゲートウェイ駅を中心とする「高輪ゲートウェイシティ」がグランドオープンしました。昨年、先行開業したツインタワー「THE LINKPILLAR 1」の北側に、新たに「THE LINKPILLAR 2」、文化施設「Museum of Narratives(MoN) Takanawa」、そして高層レジデンス棟が開業。JR東日本が構想発表から12年の歳月をかけ、社運を賭けて誕生させた一大都市開発プロジェクトです。開発面積は約10ヘクタールに及び、森ビルが手掛けた麻布台ヒルズの区域面積(約8.1ヘクタール)を上回ります。


Museum of Narratives(MoN)


MoNのルーフトップから高層レジデンスを望む

このエリアは、明治末期からの埋め立てによって造成された土地です。新駅開業前は広大なJR東日本の車両センター(品川車両基地)が広がっていました。かつて東海道新幹線の車窓から目に飛び込んできたあの車両基地が姿を消し、代わって近未来型の巨大都市空間が誕生したのです。

現地に足を運んで驚かされるのは、既存の都心商業施設に比べて、スペースのゆとりが桁違いである点です。その象徴がJR高輪ゲートウェイ駅西側の駅前広場でしょう。既成市街地の再開発では開発面積に限界があり、どうしてもパブリックスペースが窮屈になりがちです。その点、広大な車両基地跡地は一から自由な構想が可能です。JR東日本はそのメリットを最大限に活かし、3つの街区を往来する通路の幅も群を抜く広さを確保しています。


MoNの足湯スペース


MoNの屋外通路

施設構成も多彩です。商業施設やオフィスだけでなく、隈研吾氏がコンセプト設計を手掛けた螺旋形状の文化施設「MoN」を併設し、幅広い層の集客を意識しています。内部には多目的ホールや100畳の畳スペース「TATAMI」を備えるほか、螺旋状の屋外通路を風に吹かれながら回遊できるのが、この施設ならではの醍醐味です。さらに、足湯や浅く水を張ったインフィニティプールといったアトラクションも用意されています。


日没後のJR高輪ゲートウェイ駅


JR高輪ゲートウェイ駅構内を鳥瞰

また、「ニュウマン高輪」28階の展望スペース「LUFTBAUM(ルフトバウム)」から望む夜景も一見の価値があります。そして、交通のハブ・高輪ゲートウェイ駅はもはや単なる移動の通過点ではなく、ゆったりと寛げる空間となりました。斬新な発想で創造されたこの近未来シティは、丸一日滞在しても飽きない新名所となるでしょう。

唯一の瑕瑾を挙げるとすれば、施設名の多くがアルファベット表記であることです。インバウンド客への配慮なのでしょうが、「MoN」は「物語ミュージアム(英語名:MoN)」でいいような気がします。「THE LINKPILLAR 2」低層部の商業エリアは「MIMURE(ミムレ)」と名付けられていますが、こうした名称が広く人口に膾炙するとはとても思えないのです。

映画『沈黙の艦隊』<北極海大海戦>|潜水艦映画に外れなし

3月20日より、Prime Videoにて映画『沈黙の艦隊』<北極海大海戦>の配信が開始されました。全8話のシリーズ1<東京湾大海戦>の待望の続編にあたります。早速、視聴しました。

「潜水艦映画に外れなし」と言われますが、本作は『クリムゾン・タイド』などの洋画の最高傑作に比肩する出来栄えです。海上自衛隊の協力を得た実物の潜水艦とVFX技術が融合した映像は臨場感に溢れ、舞台を氷塊漂う北極海に移したことで、一段とスケールアップしています。本作では、海江田四郎(大沢たかお)率いる最新原潜「やまと」を撃沈すべく、米軍が名門ベイツ兄弟の操る最新原潜2隻を投入。ニューヨークの国連総会を目指す「やまと」との手に汗握る攻防が繰り広げられます。

劇中のニコラス・ベネット大統領が振りかざす「米国の正義」は、現実世界のトランプ大統領が唱える自国第一主義とも重なって映ります。昨今の国際情勢を見るにつけ、日本政府も米国追従の姿勢を再考し、独自の専守防衛体制を構築すべき時期にあるのではないでしょうか。映画が突きつける「世界規模の超国家軍隊による恒久平和」という海江田の理想と、それを追認し独立国《やまと》と同盟を結んだ新・竹上内閣の決断は、観る者に重い問いを投げかけます。

また、政治ドラマとしてだけでなく、重厚なヒューマンドラマとしての完成度も特筆すべき点です。海江田《やまと》元首と深町「たつなみ」艦長の宿命の相克はもちろん、『クリムゾンタイド』のハーバード大出身のエリート副長(デンゼル・ワシントン)とベテラン艦長(ジーン・ハックマン)の対立を思わせる印象的なシーンもあります。大統領から攻撃中止命令を受けてもなお交戦を続けようとする米太平洋艦隊司令官スタイガーに対し、彼から指揮権を剥奪するボイス艦長の立ち振る舞いなど、組織と個人の信念がぶつかり合うシーンは見どころ満載です。

シリーズ第3作の公開が、今から楽しみでなりません。

魯山人写し「染付吹墨法螺貝向付」にホタルイカを盛る

稀代の食通として知られる北大路魯山人は、「器は料理の着物である」という名言を残しています。昨夜、旬のホタルイカの酢味噌和えが食卓に上りました。妻がスーパーの店頭で生のものを見つけたそうで、かつての魯山人の時代には夢想だにしなかった贅沢が、現代の流通革命のおかげで叶ったというわけです。この一皿を肴に、敬愛する魯山人について触れてみたいと思います。

先ごろNHKで放送された『魯山人のかまど』(全4回)の初回では、京都・和知川の鮎を生きたまま大磯の吉田茂邸に運ばせるエピソードが紹介されました。魯山人はエッセイ「鮎の名所」の中で、鮮度についてこう記しています。

「(前略)あゆの味は渓流激瀬で育った逸物を、なるべく早目に食うのでなければ問題にならない。岐阜のあゆも有名ながら、わたしの口にはあゆ中の最高とはいえず、況や東京ではなおさらだめと知らなければならない」

今回、ホタルイカを盛ったのは魯山人写しの「染付吹墨法螺貝向付」です。同形のオリジナルを目にしたことはありませんが、京都・何必館のコレクションにある「染付鯰魚皿」(写真・下)と趣向がよく似ています。魯山人が創作した器は、今や美術館の収蔵品か蒐集家の手元にあり、入手は極めて困難です。その点、現代の職人が原作の味わいを細部まで忠実に再現した器は「魯山人写し」と呼ばれ、私たちの食卓に彩りを与えてくれます。

「魯山人写し」では、絶作となった「織部蟹絵平鉢」や銀彩もよく見かけますが、白と藍のコントラストが鮮やかな「染付」こそが、どんな食材も引き立ててくれる最良の器だと思っています。

4月2日は「ピンクムーン」

昨夜、帰り道に見上げた「ピンクムーン」があまりにも美しく、思わず足を止めて露出補正をしながらカメラに収めました。一年を通して、慣れ親しんだこの歩道から望む景色のなかでも、昨夜の月は間違いなく随一の輝きを放っていたように思います。

桜色に染まった季節だけに「ピンクムーン」と呼びたくなりますが、実は北米先住民の農事歴に由来するものだそうです。この時期にピンクの花を咲かせる「フロックス」という山野草にちなんだ命名で、和名ではクサキョウチクトウやキキョウナデシコなどが知られています。

道路にせり出したソメイヨシノはまだ若木なのでしょう、花付きが良く実に見応えがあります(昼間に撮影した写真)。一方、近所の井の頭池を囲むソメイヨシノは年々樹勢が衰え、全盛期を知る者にはどこか物寂しく映ります。戦後の高度成長期に植樹されたソメイヨシノの多くは、平均寿命といわれる60~80年を迎え、引退の時期に差し掛かっているのです。

昨年、近所に完成した賃貸アパートの名は "Grand Cerisier"(グラン・スリジエ)。東側の桜並木から着想を得て、フランス語で「大きな桜の木」と名付けたのでしょう。洗練されたネーミングにふさわしく、その玄関先には今、この上ない春の光景が広がっています。