2024年「四月大歌舞伎」夜の部は、にざたま夢の競演による『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』&『神田祭』でした。
市川宗家と並んで抜群の集客力を誇るのは、十五代片岡仁左衛門(松嶋屋)と坂東玉三郎(大和屋)のふたりではないでしょうか。今回は、玉三郎を是非見たいという同級生のために一等席を手配して、「にざたま」コンビのお芝居と舞踊に同伴しました。先ずは、松竹が公開した特別ビジュアル(写真・下)をご覧下さい。
盗人・鬼門の喜兵衛(仁左衛門)と土手のお六(玉三郎)は、悪人夫婦。惚れた男のためなら悪事にも手を染める悪婆・お六が夫の手助けをして、瓦町油屋(質屋)に乗り込み、強請(ゆすり)を働くというのが『於染久松色読販』の筋書きです。通称《お染めの七役》、今回は名場面をダイジェストした「見取(みどり)」上演です。ふたりの示し合わせたような視線が実に様になっているではありませんか。幕切れ、思惑が見事にはずれ花道を籠を担いで引っ込む場面は、ふたりの仕草がかわいらしく滑稽味にあふれ、会場から万雷の拍手が送られました。次の清元の舞踊『神田祭』では、粋でいなせな鳶頭を仁左衛門、艶っぽい芸者を玉三郎が演じます。<火事と喧嘩は江戸の華>と言います。夜の部はそれを地で行く演目構成です。
400年以上にわたる歌舞伎の歴史を遡っても、「にざたま」のような不世出の役者コンビは見当たりません。歌舞伎ファンなら誰しも、同時代を共に生きる喜びを感じているはずです。昭和ならともかく、様々なエンタメ・コンテンツが存在する令和の今日において、歌舞伎が観客をひきつけ存在感を放っているのはこのふたりによるところが大きいと考えます。仁左衛門さんの気迫に満ちた舞台を観ていると、傘寿を迎えた役者さんであることをついつい忘れてしまいそうになります。
けれんたっぷりの大南北(おおなんぼく)のお芝居が大好きです。スター歌舞伎役者は生涯現役です。『東海道四谷怪談』と『桜姫東文章』の舞台をもう一度「にざたま」で観たいものです。