2023年初芝居|新春浅草歌舞伎

2023年の初芝居は3年ぶりの新春浅草歌舞伎へ。銀座線・浅草駅構内は人いきれで咽返るようでした。成人式を含む3連休に浅草を訪ねるのは初めて。浅草駅・1番出口からすぐの雷門前はいうまでもなく、会場の浅草公会堂までの道々は人また人。外国人観光客も数知れず、浅草界隈は完全にコロナ前の賑わいを取り戻していました。お天気も上々、東京スカイツリーが一望できます。

新春浅草歌舞伎は若手歌舞伎役者の登龍門として位置づけられ、出演者には、座頭の尾上松也をはじめ、中村歌昇坂東巳之助中村隼人等が名を連ねます。観劇した第一部の演目は、『双蝶々曲輪日記・引窓』と『男女道成寺(めおとどうじょうじ)』です。

NHK「BS時代劇」の『大富豪同心』に出演し、すっかりお茶の間の人気者になった中村隼人が『引窓』で南与兵衛を、人を殺めて逃亡の身の力士・濡髪長五郎を芝翫の長男・中村橋之助が演じます。念願の代官に任じられたばかりの与兵衛のお役目は、義理の母親の実子・濡髪を捕えること。出世を喜ぶ母親を前に無邪気に事の経緯を語る与兵衛は実家に隠れている濡髪の存在を水鏡で知ります。その喜びも束の間、やがてふたりの息子の狭間に立って苦悩する母親の心中を察し、苦悶しながらも一計を案じます。橋之助の長五郎は関取らしい重厚感は表現できたものの、一本調子の台詞回しがやや気になりました。一方、隼人は元遊女で妻のお早(新悟)との掛け合いも見事で、情愛あふれる演技で観客を魅了してくれました。幕切れは、与兵衛が「代官の役目は夜明けまで」と言い放って濡髪を逃がします。

昨年十二月の團十郎襲名披露公演で『京鹿子娘道成寺』を観たばかり。『男女道成寺』は所謂「道成寺物」のひとつで、歌舞を披露する白拍子(しらびょうし)を立役に演じさせたいという狙いから誕生した演目です。記憶に新しい『京鹿子娘道成寺』と細部を比較できたのが大きな収穫でした。白拍子桜子実は狂言師左近を坂東巳之助が演じます。その白拍子姿は新悟演じる艶やかな白拍子花子とは対照的で、狂言師に変身する瞬間が前半の大きな見どころです。坂東流家元だけあって、狂言師に扮してからの舞踊と台詞回しは堂に入ったもの。なにより、表情から生き生きと楽しそうに演じられておられるのが伝わってきました。巳之助丈の今後に注目したいと思います。

柝の入りてひきしまる灯や初芝居 / 水原秋櫻子