読書

ブックレビュー:『スルガ銀行 かぼちゃの馬車事件』(大下英治著・さくら舎)〜救世主・河合弘之弁護士が挑んだ白兵戦〜

書名を聞いてすぐにピンときた方は、金融や不動産関係のお仕事をされている方ではないでしょうか。この事件が発覚したとき、被害者に自分自身を重ねて、自責の念にかられた方も少なからずいることでしょう。バブル期に投資用マンションを購入して痛い目に遭…

論語と恩師~<見義不為 無勇也>~

先週、同級生を通じて中学時代の恩師U先生が他界されたことを知りました。1月6日のことでした。卒業以来、毎年欠かさず頂戴していた年賀状が届かないので、もしや体調を崩されたのではと心配していた矢先のことです。通っていたのは1学年4クラス編成の某国立…

GAFA帝国の次なる支配戦略~さらなる成長に死角はないのか?~

<GAFA>には様々な異名があります。本拠地米国メディアは"Big Four"や”Big Tech(或いは単にTech)”と呼び習わすのが通例です。一説では、仏ルモンド紙が最初に<GAFA>という新語を使ったのだそうです。売上・利用者数が桁違いの規模を誇る<GAFA>は今や…

ブックレビュー:『老人支配国家 日本の危機』(文春新書)

『老人支配国家 日本の危機』の著者はエマニュエル・トッド氏。ソ連崩壊やリーマンショック、イギリスのEU離脱を予測したことで知られる歴史人口学者です。2020年12月に完全日本語オリジナルとして出版された『エマニュエル・トッドの思考地図』を読むと、著…

ブックレビュー:『フランスの小さくて温かな暮らし365日』

年明け、オミクロン株の感染者が急増。この2年間お預け状態の海外渡航を今年こそ再開と意気込んでいたのですが、年初から雲行きが怪しくなってきました。航空会社や旅行代理店には厳しい事業環境が続きそうです。もうしばらく、TBS『世界遺産』をはじめ海外…

2021年マイベストブックは『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』〜祝・第48回大佛次郎賞受賞〜

毎年、年末になると書評子が今年印象に残った本を新聞をはじめ各種メディアが取り上げます。これに倣って2021年のマイベストを問われたら、文句なしに『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』と答えるでしょう。作者・堀川惠子さんは、広島テレビ女性初の…

「マルチステージライフ」とアドラーの「ライフスタイル」論

2016年に出版された『LIFE SHIFT』の続編『LIFE SHIFT2』(東洋経済)が刊行され話題になっています。副題は「100年時代の行動戦略」。超高齢化社会の到来を前に具体的な行動指針さえ持ち合わせていない大多数の高齢者や高齢者予備軍にはうってつけの指南書で…

山岳コミックの金字塔『岳 完全版』全9巻を大人買い

先月下旬、北アルプスに遠征したとき、宿泊した穂高岳山荘(注)のラウンジ書棚に山岳コミックの金字塔『岳』全18巻が収まっていることに気づきました。前泊の徳澤園のラウンジでも見かけました。コミック『岳』の舞台は北アルプス穂高連峰、主人公の島崎三…

アンソロジー『石垣りん詩集 表札』を読む

朝日新聞に掲載された記事(2021年9月18日)に触発されて、『石垣りん詩集 表札』(童話屋)を手にとりました。出版社は詩集や絵本を手掛ける童話屋(杉並区成田西2-5-8)。作者と親交のあった創業者で編集者の田中和雄さんが積年の思いを込めて出版されたこ…

吉祥寺の<ブックマンション>を訪ねて

昨年7月、吉祥寺にオープンした<ブックマンション>を初めて訪れました。以前、「シャポー・ルージュ」(旧「バンビ」)という名前の老舗洋食店があった商業ビルの地階スペースが新しいスタイルの古書店に変貌していました。営業日が水/金/土/日(13:00~17…

「親ガチャ」の当たりは十人十色~裕福な家庭に生まれることが当たりとは限らない~

最近、全国紙にも頻繁に登場するようになった「親ガチャ」という若者言葉、。中高年には耳慣れないこの言葉、ご存じない方のために含意を解説しておきたいと思います。カプセル入りの「ガチャ」から何が飛び出すか分からないように、<どんな親の元から生ま…

『山小屋ガールの癒されない日々』で知る山小屋のリアルな日常

3年前、山小屋が大の苦手だという友人T君を説得して見晴(尾瀬ヶ原)にある弥四郎小屋に1泊、至仏山に登ったことがあります。テント派のT君は人見知りするタイプで山小屋で見知らぬ登山者と一晩を共にするのは苦痛だというのです。ひと口に山小屋といっても…

J.K.ローリングさんのハーバード大学卒業記念講演録|『とてもよい人生のために』(静山社)

隣駅南口の目の前にある図書館、<武蔵野プレイス>へ行くときは、必ず貸出点数上限の10冊を借りてくることにしています。明確に借りる本が決まっていない場合は、あてどなく図書館をほっつき歩きます。そんなときにかぎって思いもよらない素敵な本との出会…

自民党総裁候補の政策論争に見る<「現実」主義の陥穽>

<「現実主義」の陥穽>と括弧書きにしたのは、この言葉が昭和を代表する政治学者丸山真男(1914-1996)の論文タイトルだからです。同論文を所収する『現代政治の思想と行動』(未來社)は、昔は法学部生の必読書のひとつで、自分も貪るように読んだ記憶がありま…

祝ギネス世界記録:「ゴルゴ13」単行本巻数は「こち亀」を抜いて世界一に

「こち亀」の「週刊少年ジャンプ」連載が終了したのは2016年。「こち亀」の単行本全200巻を「ゴルゴ13」(連載開始は1968年)が抜き去ったと知って感慨を新たにしているところです(現在202巻)。作者のさいとう・たかを氏は84歳、体力が続くかぎり描き続け…

「監視資本主義」社会の立役者デジタルプラットフォーマーの絶大なる影響力

2021年8月27日付け日経朝刊の<GAFA「日本株超え」>という見出しは衝撃的でした。2020年5月9日、同紙はGAFAの時価総額が東証一部(2170社)超えを報じてから、わずか1年あまりで日本株全体の時価総額を凌駕してしまったのです。足元、GAFAの時価総額は日…

『藤井聡太論 将棋の未来』~AIを超えて~

『藤井聡太論』(講談社+α新書)の著者は、日本将棋連盟会長を歴任された谷川浩司九段。この本を読もうと思ったきっかけは、昨年7月、棋聖戦5番勝負に挑んだ藤井七段が第2局58手で指した「△3一銀」が「AI超え」と呼ばれるようになったことです。進化を重ねる…

立花隆さんの後悔〜森羅万象への尽きることのない好奇心の代償〜

立花隆さんの著作を貪るように読んだ時期がありました。20代で出会った『宇宙からの帰還』(1983年)を皮切りサイエンスの世界に切り込んで次々と刊行される氏の著作は殆ど目を通したはずです。どこまで理解できたかは甚だ心許ないのですが、日本人ノーベル賞…

ブックレビュー:団鬼六の異色評伝『赦す人』

稀代の官能小説家団鬼六(だんおにろく)の著作を一冊も読んだことはありません。氏の作品といえばかろうじて映画化された『花と蛇』を知る程度です。最近、愛読作家のひとり大崎善生(おおさきよしお)の旧作『赦す人』(2012年刊行)を手にする機会があっ…

眺めているだけで楽しくなる『解剖図鑑シリーズ』

建築専門出版社エクスナレッジ社が刊行する『解剖図鑑シリーズ』をご存知でしょうか。このシリーズの存在を知ったのは2017年の夏。近所のジュンク堂書店をブラブラしていたときに『歌舞伎の解剖図鑑』(絵と文:辻和子)(2017年7月28日初版第1刷)を見つけたと…

14サミッター竹内洋岳さんの『下山の哲学』(太郎次郎社)を読む

2012年に日本人として初めて8000m級14座完全登頂を果たした竹内洋岳(ひろたか)さんは、翌2013年に植村直己冒険賞を受賞した日本を代表するアルピニストのひとりです。『下山の哲学』というタイトルに惹かれて、本書に手を伸ばしました。1984年にマッキンリー…

小説家黒木亮さんの素顔

愛読者のひとりとして、日経夕刊の(全5回)に登場した黒木亮さんのインタビュー記事を興味深く拝見しました。10年前に読んだ『リスクは金なり』(講談社文庫)を慌てて引っぱりだしてきたら、かなり内容が重複していました。すっかり忘却の彼方だったので、読…

『美術の経済』(小川敦生著・インプレス)で知る美術品売買の舞台裏~日本人は美術品を買わない~

最近、立て続けにアートをテーマにした週刊誌や単行本を読む機会がありました。<緩和マネーで爆騰!アートとお金>と題した週刊東洋経済(2021/2/20)は、経済専門誌が特集しているだけあって、市場規模から説き起こすあたり、さすが要を得ています。そもそ…

東日本大震災から10年に思う

2011-3-11 PM2:46 自宅でインテリアコーディネーターと打ち合わせをしていました。2ヶ月後に引越しを控えていたからです。ちなみに、この日は金曜日で六曜は友引でした(曜日の感覚は忘れがちです)。在宅だったので帰宅難民にならずに済みました。経験した…

『翻訳百景』で知る翻訳家という仕事

ダン・ブラウンの世界的ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』の翻訳で知られる越前敏弥氏の『翻訳百景』(角川新書)を読んで、初めて翻訳家という仕事の実相が見えてきました。翻訳は、大別すれば、実務翻訳(又は産業翻訳)、映像翻訳(字…

吉村昭の歴史小説の舞台裏~「父・吉村昭を振り返る」講演録より~

先月下旬、三鷹ネットワーク大学で「父・吉村昭を振り返る」と題した講演会が開催されました。講師は吉村司氏(故吉村昭・津村節子夫妻の長男)。幸い、当選したので会場で聴講(抽選制)できました。興味深い内容でしたので、吉村文学に関心のある方は、3/2…

向田邦子没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」最終日@青山・スパイラル

2021年は、向田邦子さんが旅行先台湾で航空機事故に遭い急逝されてから40年目にあたります。たまたま、武蔵野プレイスから借りてきた『名文探偵、向田邦子の謎を解く』(2011年・いそっぷ社刊)を読んでいる最中にそのことに気がつきました。ちなみに、著者…

柳美里著『JR上野駅公園口』を読んで~上野の杜で覚える違和感の正体~

あまりにも切なく物哀しい物語だったので、頁をめくる手が止まり、なかなか前へ進むことができませんでした。増刷されたばかりの文庫本の帯にはこう書かれています。<全米図書賞受賞!全世界が感動した「一人の男」の物語>これほど本書に似つかわしくない…

ユニクロ創業者柳井正氏の自叙伝にして最良の経営哲学書『一勝九敗』(新潮文庫)を読んで

今年、4年間の大学生活を送った街を久しぶりに訪れ下宿先だった2か所へ足を運ぶと、おんぼろアパートは立派なマンションに様変わりしていました。当時は、風呂なし・共同便所が至極当たり前の時代でした。1Rマンションに住んで優雅な暮らしを謳歌している今…

体験的井上ひさし伝〜「没後10年井上ひさし展-希望の橋渡しする人」展より〜

3連休初日、敬愛する井上ひさしの没後10年展 を見たくて、3年ぶりに世田谷文学館を訪れました。没後30年の「澁澤龍彦 ドラコニアの地平」展以来となります。井上ひさしとの出会いは、文学作品ではなく、NHK総合テレビの人形劇「ひょっこりひょうたん島」。娯…