天晴れ! 87歳のトレーダー・シゲルさん

日経の新聞広告に釣られて『87歳現役トレーダー シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社刊)を購読しました。「日本のバフェット」と持ち上げられるだけあって、著者の藤本茂さん(以下」「シゲルさん」)は、終身雇用制度に守られながら定年退職を迎えたそこいらの隠居爺いとは大違いです。四反農家に生まれ、高卒後、神戸でペットショップに就職。その後、ペットショップや雀荘を自営します。シゲルさんが雀荘を売却して専業投資家になったのは1986年ですから、ほどなく、バブル経済崩壊に阪神・淡路大震災という途轍もない逆境に直面することになります。波瀾万丈の生い立ちと言っていいでしょう。バブル経済崩壊の影響で、10億円あった資産は2億円まで激減したそうです。シゲルさんが非凡なところは、2002年に「ネット取引」を知って、66歳にして初めてPCを購入し、株式投資を再始動させたことです。その結果、今日18億円の資産を築いて、メディアにも注目され、こうしてダイヤモンド社から本を出版するに至ったのです。


(PRESIDENT Online)

スキャルピングスイングトレードなど細かいトレード手法やテクニカル・ファンダメンタル分析はさておき、著書を読んで、シゲルさんから学ぶべきことは実に多いと感じました。幾つか、ポイントになるセンテンスを引用しながら、解説していきたいと思います。

「投資は本当に奥が深く、おもしろいです」と率直に語るシゲルさんだからこそ、生き馬の目を抜く株式投資の世界で成功したのだと思います。株式投資と真剣に向き合い、朝2時から情報収集に励み、日経新聞を隅々まで読むことをルーティンにされています。日経新聞の配達員にインターホンを鳴らしてもらおうなんて、凡人には思いも寄らない発想です。新聞の配達時間をいち早く知り情報収集に努めたわけです。事業主だった頃から「時代を読む力」の重要性に気づき、すぐに行動に移すフットワークの軽やかさも成功の原動力のひとつです。最も重要な点は、興味を持てる分野(株式投資)に専念し、自らの頭で深く思考することをシゲルさん自身が習慣化したことです。日々のトレード記録をつけること然り、体力づくりのための早朝の散歩も同様です。漫然と散歩するのではなくシゲルさんは街角景気を仔細に観察しているのです。

以前、ローカルテレビ番組に出演したシゲルさんは、ゲストの考古学者から「そんな不労所得で儲けようとせず、ちゃんと働きなさい」と諭されます。日々勉強だと言い切るシゲルさんはこの言葉に大層憤慨します。こうしたありきたりの古い考え方からなかなか抜け出せないところが日本人のダメなところです。

巷に投資指南書は星の数あれど、実体験に即したシゲ爺の本は一読の価値ありだと申し上げておきます。

P.S. 先頃亡くなったマエストロ・小澤征爾さんが、生前、村上春樹さんに「僕が一番好きな時刻は夜明け前の数時間だ」と語ったそうです。こんな時間帯から総譜を読み込んでいたのですね。夜明け前に起きて机に向かうようにしていると村上春樹さんも言います。”The early bird catches the worm”と肝に銘じておきましょう。