現代ポートフォリオ理論の父・マーコウィッツ氏の業績とその綻び

日経本社コメンテーター・梶原誠氏の記事(23/7/25付け)を読んで、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ハリー・マーコウィッツ氏(1927-2023)の死去を知りました。投資分野で働くプロフェッショナルなら誰しもが一目置く存在でした。

氏の偉大なる業績は、MPT(Modern Portfolio Theory)即ち現代ポートフォリオ理論を提唱したことにあります。野村證券の証券用語解説集はMPTをこう説明しています。

<資産運用において価格変動リスクを抑えながら一定のリターンを期待するうえでは、ポートフォリオとして多数の銘柄や複数の資産に分散投資するのが有効であり、ポートフォリオ全体の価格変動リスクは、組入銘柄の個々の価格変動リスクおよびその組入比率に加え、任意の2銘柄間の値動きの連動性を表す相関係数で決まることが示された。>

MPTが個別株よりベンチマークに投資を推奨する所謂「インデックス投信」を広く普及させたことはよく知られています。記事はバンガードの創設者にして「インデックス投信」を開発したジョン・ボーグル氏への影響にも言及しています。

しかし、株式投資とは一筋縄ではいかないものです。2008年のリーマンショックにおいては金融資産間の相関係数が極度に高まり、結果的に価格変動リスクも増大したため、MPTの綻びが露わとなりました。株式、債券、コモディティ、不動産とあらゆるアセットクラスが暴落したのですから、分散投資は事実上機能しなかったわけです。効率的市場仮説は砂上の楼閣に過ぎなかったことになります。もうひとつ似たような金融ショックがあります。遡る1998年にノーベル経済学賞を受賞した二人の経済学者、マイロン・ショールズロバート・マートンが参画したヘッジファンドLTCM破綻がそれです。きっかけは1997年7月よりタイで始まったアジア通貨危機でした。その煽りを受けたロシア危機がとどめを刺した格好です。

今年4月、来日した92歳の「オマハの賢人(Oracle of Omaha)」ことウォーレン・バフェット氏は分散投資は無知に対するヘッジだ。自分で何をやっているかわかっているものにとって、分散投資はほとんど意味がない」と反論しています。バフェットの愛読書『雇用・利子および貨幣の一般理論』の著者ケインズはこう言っています。

「市場の非合理性はあなたの想定以上に長く放置される」のだと。

株式市場は常に確率論や整然とした分析を超えた動きをするものだと達観していた方が、ブラックスワンが現れたときに動揺しなくて済みそうです。