"FIRE"本のエッセンス(後篇)~「複利は人類最大の発明である」~

投資の入門書には必ずといっていいほど特殊相対性理論の提唱者にして天才理論物理学アインシュタイン博士の「複利は人類最大の発明である」という言葉が引用されています。云うまでもなく「複利」とは「元本」だけではなく「利息」が「利息」を生むことを指し、似て非なる概念は単利です。アインシュタインがなぜ金融のパワーの源ともいうべき「複利」に言及したのか詳らかではありませんが、天才の気づきはさすがというほかありません。都市銀行に就職してまもない頃、泊まり込みの集合研修でリーダーが自慢気に語った次の言葉をよく覚えています。

トヨタ自動車はお盆の時期にラインを止めたらその間1円も稼ぐことはできないが、銀行は盆休みも正月休みも関係なく金利を稼ぐことができる」

今なら<おいおい現預金と有価証券を合わせた手元資金が6兆円近いトヨタ銀行に対して無礼だろう>とツッコミを入れるところですが、研修リーダーは、右も左も分からない新入社員にメーカーと銀行の違いを端的に説明しておきたかったのでしょう。

複利」効果を実感できる便利な数式「72の法則」がライオン兄さんの本に紹介されています。「複利」で運用した場合にお金が2倍になる期間を知るための簡易算式が「72の法則」です。正確な数式で表すとこうなります。4つの変数のうち3つ分かれば、残りを計算で求められます。計算上、税金は一切考慮していません。

X = a (1 + r)n [aは元金、rは運用利率、nは乗数で運用期間(年数)、Xは求めたい将来価値(FV)=n年後の元金]

日経平均が最高値を記録した1989年12月29日(38915円87銭)以降、90年代は日本経済は奈落の底へと転落していきます。バブル退治のため日銀が政策金利を容赦なく引き上げたので、1991年1月~1996年7月あたりまでは日本国債10年物は3%~6.8%のレンジで流通していました。「72の法則」を使って、安全資産(risk free asset)の代表格日本国債で3%運用すれば、72÷3%=24年で元本が2倍になる計算です。一方、1957年に導入された「S&P500種株価指数」の過去10年の年率平均リターンは14.7%ですから、「S&P500種株価指数」一択で運用していれば72÷14.7%=5.03年で元本が2倍になったわけです。確かにこの10年の米国株式市場は破竹の快進撃でしたから、この先の10年でそんな数字になるわけはないときっと悲観論者は反論してくるでしょう。現に「S&P500種株価指数」は昨年末と比べると米金利高で2022年1~7月で13%(一時は23%)も下落しています。短期的にはよくある現象です。ところが、「S&P500種株価指数」の導入以来64年間の長期平均リターンは10.7%に達するのです。もちろん、投資対象は同じでも経費率やドルを買ったタイミングでリターンに差異は生じます。それでも、長期保有すればするほど、経費や為替コストが平準化されていくので、安心して「S&P500種株価指数」に積立投資を継続すべきだと考えます。

投資の神様、バークシャー・ハサウェイウォーレン・バフェット(Warren Buffett)氏は91歳です。自分が死んだら99%の資産(約1000億米ドル)は慈善団体に寄付し、残り1%を妻に遺すと公言しています。驚く勿れ、1%といっても邦貨換算1000億円超えです。妻には「S&P500種株価指数」で運用するように指示しているそうです。長期保有という約束事を守って投資の神様の言葉に従っておけば、7年で資産は2倍に成長します。

ここからは入門書から離れた自分なりの投資運用方針です。バブル崩壊後、世界中の先進国で金利喪失が同時進行し、債券投資の魅力が剥落してしまいましたが、米国債10年金利は年初の1.744%から足元2.82%(一時3%超え)まで急上昇しています。豪ドル10年国債は6月1日に3.69%まで上昇し、直近では3.1%前後で推移しています。コロナ禍にありながら米国経済の復調ぶりは目を瞠るものがあり、米連邦準備制度理事会FRB)はインフレリスク抑圧のために当面金利を高めに誘導します。年齢が40代後半以降であれば、「S&P500種株価指数」一辺倒ではなく、残存期間10年までを目安に米国債や高格付けの豪ドル建て社債を購入して、安定したインカムゲインを確保しておくのも一策だと思っています。債券利回りがここまで回復してこれば、現金15~20%、債券30~50%、株式40~60%と基本どおりの分散投資を心掛けてもいいでしょう。

財産三分法によれば不動産も資産ということになりますが、自宅マンションや一戸建ては仮に借金がなくとも住んでいる以上、手放すわけにはいきません。不動産は都心の好立地のマンションでもないかぎり、すぐに売れるものではありません(流動性リスクが高い)。毎年、固定資産税を払い続けなければ維持できないので少額の負債ぐらいに考えておくべきです。