ソフトバンクG第5回劣後債の目論見書から分かる引受手数料~ソフトバンクGと金融機関の凭れ合い構造~

直近の日本国債10年物の年利回りは0.060%。100万円を10年国債に投資しても、年間わずか600円の利金しか得られない計算になります。一方、今月21日に発行される総額4050億円のソフトバンクグループ第5回利払繰延条項付・期限前償還条項付無担保社債(劣後特約付)の当初5年の利回りは2.75%に決まりました。10年国債の何と45.8倍もの社債利息が手に入るわけですから、一見、魅力的な債券に映ります。しかし、超低金利時代のこの高利回りと引き換えに、個人投資家は利回り以上の過大なリスクを無担保で背負わされているのです。

ソフトバンクGの本劣後債券の格付けはBBB(JCR=日本格付研究所)。ソフトバンクGの優先債はA-ですから2ノッチ低い水準ということになります。米S&Pに本債券の格付けを依頼すれば、当然、BB-の投資非適格債券となってしまいます。それでは債券発行できませんので、ソフトバンクGは従来からJCR1社の格付けに頼り切っているのです。米系格付機関2社と比べると日系格付機関の格付けは総じて大甘で、穿った見方をすれば、格付け手数料欲しさに基準を緩めていると思われても仕方ありません。信用リスクはシニア債券に劣後する上、5年後に必ず償還される保証もありません。債券の満期償還日は2056年6月21日に設定されていますから、将来、金利が急上昇した場合、発行体であるソフトバンクGはファーストコールを見合わせ、最長35年間、期限の利益を伸長することができるのです。発行体に極めて好都合なコールオプションを2.75%という格安の金利で売り渡しているというのが現実なのです。2016年9月に発行されたソフトバンクGの第4回劣後債の年利回りは3.00%、しかも償還期限は25年でした。第5回劣後債の発行代わり金で第4回劣後債(総額4000億円)は償還される予定だそうですが、ソフトバンクGは年間10億円の利払い費用を節約できたことになります。

では、ソフトバンクGは本劣債を引き受けた証券会社にどれくらいの引受手数料を支払っているのでしょうか。発行登録追補目論見書を読むと、凡そ見当がついてしまいます。通常、債券の引受手数料は株式に比べると1/10~1/7あたりではないでしょうか。今回のソフトバンクGの劣後債は、発行金額が巨額な上にリスクプロファイルが複雑です。従って、一般事業債のように30~50bptsの引受手数料で証券会社が満足するはずもありません。追補目論見書9頁に発行費用の概算額が74億14百万円と記載されていました。格付け費用、弁護士費用、目論書・パンフの印刷費用等を差し引いても、証券会社には70億円前後の手数料が転がりこんだと見ていいでしょう。

主幹事の大和証券(1000億円)やSMBC日興証券(950億円)には、それぞれ17億前後の手数料収入がもたらされたことになります。通常、個人向け社債は100万円単位で販売されるのですが、一部証券会社に至っては、最低投資単位を500万円に引き上げ、富裕層個人に的を絞った効率的販売に徹していたようです。ソフトバンクGに群がるのは、国内の銀行・証券だけではありません。今日6月17日付け日経新聞は<外資系金融から借り入れ急拡大>というタイトルで、外資系金融機関がメインバンクみずほ銀行に迫る勢いで貸し込んでいると報じています。2021年3月末の主な借入先は、みずほ銀行の8500億円を筆頭に、JPモルガン(8293億円)、BNPパリバ(6015 億円)、ゴールドマン(5932億円)とずらり外資系金融機関が続きます。そうはいっても、外資系ですから、ソフトバンクG保有の有価証券等を担保にして保全に抜かりはないはずです。そして、巨額融資の見返りに、株式や債券の引受けシェアを拡大し、フィービジネスで稼ごうというのが外資系各社の魂胆なのでしょう。

世界的低金利の状況下、ソフトバンクGに擦り寄る内外金融機関は数知れず。長引くコロナ禍で異次元金融緩和が日米欧三極で継続するなか、その恩恵を最大限享受しているのは借金まみれのソフトバンクGに他なりません。お人好しな個人投資家が一番割りを喰っていることだけは間違いなさそうです。