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『翻訳百景』で知る翻訳家という仕事

ダン・ブラウンの世界的ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』の翻訳で知られる越前敏弥氏の『翻訳百景』(角川新書)を読んで、初めて翻訳家という仕事の実相が見えてきました。翻訳は、大別すれば、実務翻訳(又は産業翻訳)、映像翻訳(字幕など)、出版翻訳に岐れます。筆者は「文芸翻訳者」を自称しているそうですが、ノンフィクションの翻訳とは異質のスキルや訓練が要求されるといいます。翻訳を職業とされている以上、<翻訳家>がふさわしい呼称だと思うのですが、ご本人は職人気質が強調される<翻訳者>を好むのだそうです。

英語が出来るに越したことはありませんが、越前氏は次の3つの条件を満たすことが何より翻訳者に求められるといいます。氏は英語の翻訳者でありますが、それ以外の言語にもそのまま当て嵌まる条件だと思います。

1)「日本語が好き」= 飽くなき表現欲

2)「調べ物が好き」= 旺盛な好奇心

3) 「本が好き」= 活字文化への情熱

そのどれひとつが欠けても、翻訳という仕事を続けていくことは困難になります。越前氏は苦労人で大病を患った後、32歳で心機一転、翻訳学校に通いながらライフワークとなる翻訳者の道を志します。映画『ライムライト』のチャップリンの台詞に自らを重ね、働きづめで幾許かの蓄えがあっからこそチャレンジできたと回想されています。

“Yes, life can be wonderful, if you're not afraid of it. All it needs is courage, imagination, … and a little dough” <人生は素晴らしい、畏れる気持ちさえ持たなければ。人生で必要なものは、勇気と、想像力、そして少しばかりのお金なのさ>

<人生には何ひとつ無駄なものはない>、かかる箴言を裏付けるように、これまでのあらゆることが仕事の肥やしになっていると越前氏は言います。翻訳者の豊かな人生経験が反映された訳書こそ最良のものだと知りました。

『翻訳百景』という書名は、筆者のブログタイトルでもあり、一二を争うほど好きだという太宰治の『富嶽百景』に因んでいるそうです。今をときめく翻訳者が太宰ファンだったとは意外でした。自分の知識などたかが知れていると謙虚に語る筆者だからこそ、次々と名訳を生みだされるのでしょう。

翻訳百景 (角川新書)

翻訳百景 (角川新書)