「行合の空」を愛でる

9月半ばを過ぎても暑い日が続きます。去る9日10日の両日は都心で気温が35度を超え、9月に2日連続で猛暑日となったのは1992年以来27年ぶりのことだそうです。東の空を見上げれば、低いところに幾つもわた雲(積雲~せきうん~)が浮遊し、西の空にはすじ雲(鰯雲)が見えます。こんな風に夏の雲と秋の雲が混在する空は、「行合(ゆきあい)の空」と呼ばれます。この季節を表現するのにうってつけの実に味わい深い言葉です。

新古今集にはこんな歌が所収されています。

<夏衣かたへ凉しくなりぬなりよや深けぬらんゆきあひの空>(慈円

過ごし易い秋の到来は待ち遠しいものの、やがてわた雲は姿を消してしまいます。この刹那、夏の雲と秋の雲が隣り合わせで同居する「行合の空」を眺めるのも楽しいものです。秋はある日突然やって来るのではなく、グラデーションのように少しずつ空の景色の変化を道連れに近づいてくるのです。

秋になれば、中村草田男のこんな一句が頭に浮かぶことでしょう。

鰯雲個々一切事地上にあり>(中村草田男

ジム帰り、たまには遊歩道のベンチに腰を下ろして、季節の狭間をたゆたう雲を見上げてみることにしましょうか。