2022年「文化の日」の過ごし方~東京国立近代美術館から神田神保町へ~

東京に暮らすようになって四半世紀以上になります。とりわけその有難味を実感するのが秋です。「食欲の秋」や「スポーツの秋」は全国津々浦々で楽しめますが、「芸術の秋」となるとファーストクラスの美術館が集中する東京は桁違いの魅力に溢れています。独法国立美術館だけとっても、6施設の内5つは東京所在ですから、東京はまさにアートの宝庫なのです。そして、「文化の日」は多くの博物館や美術館で常設展示を無料で鑑賞できます。

久しぶりに竹橋の東京国立近代美術館を訪れました。都心一等地北の丸公園に在るこの美術館を新築寄贈したのは、ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)の創設者・石橋正二郎氏です。正面入口の小さな掲示板にそう記載されています。

我が国の近現代美術の流れを通覧できる所蔵作品展「MOMATコレクション」(~2023年2月5日)は大勢の来館者で賑わっていました。なかでも、「戦争の時代ー修復を終えた戦争記録画を中心に」というタイトルの下、展示された大家の戦争画に目を瞠りました。太平洋戦争中、戦意鼓舞に加担したのは藤田嗣治「哈爾哈河畔之戦闘」・「大柿部隊の奮戦」・「薫(かおる)空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す」)だけでなく、小磯良平「カンパル攻略(倉田中尉の奮戦)」)や宮本三郎「本間、ウエンライト会見図」)らも陸軍省嘱託として従軍し戦争画を描いていたのです。

こうした戦争画は、戦後GHQに接収され、1970年に「永久貸与」という形で日本に返還された経緯があります。今回は、経年劣化による傷みの修復が終了した作品を中心に展示されています。東京国立近代美術館に収蔵されている戦争画(大半が洋画)は153点あると言われていますが、その全てを公開する展覧会は未だ開催されていません。戦争に協力したとして批判の矢面に立つ藤田嗣治の大作からは、かつて加藤周一が語ったように、戦争を賛美したりや軍人を英雄視する態度を看て取ることはできませんでした。戦局が悪化するにつれて重苦しくなる色調に、寧ろ画家自身の悲痛な魂の叫びが宿っているように思えました。戦後77年、そろそろ、これまでタブー視されてきた戦争画を一挙公開する展覧会が開かれてもいい時期ではないでしょうか。

東京国立近代美術館を出たその足で、3年ぶりに古本まつりが開催されている神田神保町へ向かいました。信号待ちの神保町交差点で空を見上げると、いわし雲がたなびいています。行列の絶えない「さぼうる2」名物の「ナポリタン」で腹ごしらえして、ワゴンセールを見て回りました。仏文学者鹿島茂さんがプロデュースした「PASSAGE by ALL REVIEWS」をはじめとするシェア型書店など新たなスポットも次々と誕生し、トポス神保町のワクワク感は健在でした。