ロバート・メイプルソープ展@シャネル・ネクサス・ホール

待望のメイプルソープ展がファッションのメッカ銀座シャネルにやってきました。本格的なメイプルソープの展覧会は近年記憶にありません。その多彩な作品群が日本で網羅的に紹介されるのは2002年以来、15年ぶりのことだそうです。


70年代、ニューヨークを拠点にセレブのポートレートや男性ヌードを被写体にして写真家としての地位を確立、やがて関心はモデルの肉体や生花へと向かい独特のモノトーン世界を創造していきます。会場入口には男性器(male sexual organs)も作品に含まれますと目立たない断書きこそあれ、初めて彼の作品群を目の当たりにする人には些か刺戟が強すぎる展覧会かも知れません。HIVに感染したことを知ってから僅か3年で世を去ったメイプルソープ。その短い生涯を思えば、作品世界には恰も死すべき運命を予兆するかのように、生命の刹那的躍動を見逃すまいという決意を感じないわけにはいきません。42歳で世を去ったメイプルソープは、生前、「自分の名声を見届けるまでは死ねない」という言葉を遺したといいます。

比較するまでもなく、前期の作品群より80年代から手掛けたフォーマルなポートレイトや花の写真の方に引き込まれます。なかでもブラインドから差し込む日差しのなかで浮遊する蘭(orchid)を捉えた数点に惹かれました。人間の肉体や植物に宿るリアルな生命感こそメイプルソープ
魅力に他なりません。


約90点のプライベートコレクションを提供したのはシャネル銀座店をデザインした建築家ピーター・マリーノ。そして、3つに分かれた展示室をデザインしたのも同氏。第1・2展示室をホワイトギャラリーに、一番奥の第3展示室をブラックギャラリーへと趣向を変えて、メイプルソープの作品群を丸ごとフレーミングしようとする試み、見事な作品世界とのコラボレーションでした。コレクターとしての審美眼とアーティストとしての企画力に脱帽です。

"MEMENTO MORI”(死を思い起こせ)という展覧会のメインタイトルも、<黒と白>、<死と生>という二項対立を際立たせるようなネーミングで秀逸です。会期は4/9まで、まだご覧になっていない方は、是非、素敵なアート空間へ足を運んでみて下さい。