本の再販制度は本当に必要なのか?

「京王パスポートカード会員様限定特別ご優待券」と呼ばれるハガキを受け取るようになって、もう数年が経ちます。毎年12月に送られて来るこのハガキが、今年は3月下旬にも届きました。優待の具体的な内容は、啓文堂書店で1会計1500円(税込)以上の買い上げをするたびに、割引率が3%から5%、8%とアップし、4回目以降は10%の割引適用されるというものです。割引の対象期間は4/1~5/8まで。購入上限金額が設定されていないので、3回目までは1500円を超える本を一冊ずつ買い、4回目に欲しい本をまとめ買いすることにしています。

最終的に消費税10%相当分が割引されるため、この優待券ハガキをこれまで最大限活用して、新刊本を購入してきました。ところが、写真(上)のハガキを持参して、3回目の優待を受けようと最寄りの啓文堂を訪れたところ、レジで「期間途中ながら中止になった」と伝えられました。手渡されたお詫びの書面には、《限定のお客様に対する機関限定のキャンペーンということで実施しておりましたが、本の値引きはしてはならないという原則に対する違反行為であるとの指摘を受けました。当社としても当該指摘を真摯に受け止め、お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、誠に勝手ながら4月21日をもって中止させていただきました》とあります。

所謂著作物の「再販制度」に違反すると判断されたわけです。日本書籍出版協会のHPには当該制度の意義について、こう書かれています。

《出版物再販制度は全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。》

再販制度」は独占禁止法の適用除外となるわけですが、競争原理を導入しないことが本当に出版文化の健全な発展を促しているのでしょうか。公正取引委員会は長年にわたり「再販制度」の廃止を検討していますが、出版業界は頑として抵抗し続けているようです。「再販制度」の対象外である電子書籍が20%~30%オフで販売されているのに対し、衡平ではありません。

一方、この10年で町の本屋さんは2/3まで激減し、2024年3月時点の全国の書店数は1万918店です。書店のない自治体は27.7%になるそうです。活字離れも手伝って、地方の書店経営が厳しくなっているのは厳然たる事実です。しかし、品揃えに乏しい小さな書店で本を買いたいとは思いません。東京に住んでいると、ジュンク堂啓文堂などの大規模書店へ自然と足が向かいます。人口減少に拍車のかかる地方の住民は、通販サイトで本を買えますから、不便はありません。大規模書店へのシフトはもはや時流です。町の薬局や小売店舗が大手ドラッグストアやコンビニに淘汰されたのと同じ道理です。耳障りのいい出版文化にこだわる時代ではないのです。

ひと昔前は、どこへ行っても本が定価で売られていることに満足していました。物販はすべからく「一物一価」であるべきだと思っていたからです。やがて、家電品をはじめ定価という概念が消失し、価格.comなどで最安値を調査して購入するのが当たり前になりました。

デジタル社会の到来に加え、人口急減社会が迫っています。ビジネスの世界は非情です。「再販制度」を存置しつつ出版業界を優遇する合理的理由は乏しいと考えます。消費者目線に気配りした京王電鉄傘下の啓文堂が出版社に屈する理由はないと思うのです。