「薬屋のひとりごと」は上質なミステリーだ!

風変わりなタイトルに惹かれアニメ「薬屋のひとりごと」を夜な夜な視聴しています。現時点でNetflixAmazon Prime Videoでエピソード24まで配信されています。主人公がボソボソと呟く毒気たっぷりのモノローグが、得も言われぬ味わいを醸し出しています。

近所の啓文堂のポップを見て、同名作品が3つあることを知りました。原作は日向夏(ひゅうがなつ)のライトノベル。その原作がスクエニ小学館から別々にコミック化(2017年~)されているのだそうです。当然、作画が異なります。アニメはてっきり原作コミックありきだと思っていました。

舞台は大陸中央に位置する架空の国の後宮。中国を思わせます。花街で「薬屋」を営んでいた主人公・猫猫(マオマオ)が人さらいに遭い売り飛ばされて、後宮の下女となります。タイトルの「薬屋」は、漢方薬を処方するような薬剤師に近いイメージです。猫猫の並外れた「薬屋」としての才能に気づいた美形の宦官・壬氏から、後宮で次々と起こる奇怪な事件の解明を迫られます。宛ら、猫猫は名探偵なのです。

なかでも、エピソード11(第11話・二つを一つに)は珠玉のミステリーといって過言ではありません。敬愛する阿多妃(アードゥオヒ)に仕える侍女頭・風明(フォンミン)は、他人に知られたくない重大な秘密を抱えています。大人には無毒な蜂蜜が赤子には毒だと知らず、滋養強壮に良かれと阿多妃の赤子に蜂蜜を与え、その子を死なせてしまいます。謎の死とされましたが、風明は後に自分の過ちのせいだと知り、己を責め続けます。そのきっかけは、阿多妃が娘のように可愛がる里樹妃の存在でした。幼い頃に蜂蜜で命を落としかけたのが里樹妃だったのです。風明は後宮に舞い戻ってきた里樹妃を毒殺しようとしますが、猫猫の機転で未遂に終わります。皇后の出産と重なった結果、東宮妃・阿多は男児を産んだものの、医師の到着が遅れ子宮を失い、子どもを産めない体になってしまいます。寵愛を受けた先帝が崩御し、やがて阿多妃は後宮を去ることになります。

風明には里樹妃を葬りたいふたつの動機がありました。一度出家した若い里樹妃が後宮に戻れば、上級妃最年長の阿多妃は後宮を去らねばなりません。阿多妃の立場を守るためという表向きの理由だけが公にされて、風明は処刑を受け容れます。風明の落ち度で阿多妃の大切な男児が亡くなったことは、長年仕えた阿多妃に知られずに済んだのです。

阿多妃が後宮を去る前夜、外壁に攀じ登り物思いに耽っていた猫猫は、阿多妃と遭遇し、月見酒を酌み交わします。徒に妃の立場にしがみついてきたばかりに、忠誠を誓う周囲の者が翻弄され不幸になっていく様を見て来た阿多妃は、「皆んな、莫迦だ」と呟きます。後宮を去る阿多妃の佇まいは壬氏と瓜二つ、夭逝した男児が実は帝の子と取り替えられ生きていたのではないかと窺わせます。外壁から滑り落ちた猫猫を咄嗟に抱きかかえたのは壬氏。幾重にも張り巡らされた伏線がこの先どう回収されていくのか見ものです。

三日月が輝くコバルトブルーの夜空の下、猫猫の淡々としたモノローグがあまりに切なく胸を打ちます。