「バルテュス展」特別鑑賞会レポート(2014/4/26)

展覧会の楽しみのひとつにギャラリートークと呼ばれる催しがあります。一般に企画展を手掛けた学芸員による作品解説全般を指すわけですが、最近は趣向を凝らした上質の企画が増えてきているように感じます。作品の見方が深まるので、こうした機会は見逃せません。

4/26(土)18:30から都美で開催された「バルテュス展特別鑑賞会〜節子夫人のバルテュス秘話に触れる〜」は、期待を裏切らない素晴らしい展覧会でした。この日は定員制だったため、節子夫人の講演を聴いた後、ゆったりと夜間鑑賞を楽しむことができました。

国内での個展開催は21年ぶり。東京ステーションギャラリーで開催された前回の展覧会(1993年)も強く印象に残る内容でしたが、今回は規模と質の両面において圧倒されました。

バルテュスが晩年を過ごしたロシニエール(スイス)にある<グラン・シャレ>と呼ばれる山荘のアトリエが展示室の一角で再現されていただけではなく、その前で節子夫人から直接説明を聴けたのは嬉しいサプライズでした。壁際に並んだ絵の具入れ、テーブルに置かれたパレット、安楽椅子、親交のあったジャコメッティの写真・・・スイス最大の木造建築物<グラン・シャレ>に今も残るアトリエで生前バルテュスが創作にいそしんだときの張りつめた空気や息遣いがじかに伝わってくるようでした。

来客はおろか節子夫人でさえめったに立ち入ることのできなかったアトリエは、思索の場であり特別の創造空間だったのでしょう。再現アトリエの片隅に置かれた油絵には着物姿の女性が描かれていました。モデルは節子夫人、バルテュスは長年にわたって筆を加えながら完成途上で世を去ったそうです。上智大学2年生のとき、来日したばかりの30歳以上も年の隔たったバルテュスに口説かれ結婚を決めた節子さん、当時バルテュスの該博な日本文化への理解に驚いたといいます。

最後の展示室には大きな写真パネル(篠山紀信撮影)がいくつも掲げられ、バルテュスが愛したロシニエールの風景やご家族の日常生活の一端を窺うことができます。日本への強い関心を示す翻訳書(『源氏物語』等)や遺愛品も展示されていて、バルテュスの創作世界により親近感を抱くことができました。

猫・少女・室内という3つのモチーフを愛したバルテュスが、若い頃、巨匠の作品を熱心に学び、なかでも伊ルネサンス期の画家ピエロ・デッラ・フランチェスカの壁画連作<聖十字架伝>の模写に精力的に取り組んだことを今回初めて知りました。大好きな画家有元利夫が芸大の卒業制作で挑んだのも<私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ-10点連作->と題する作品でした。ジャコメッティといい、ピエロ・デッラ・フランチェスといい、バルテュスの愛したアーティストが自分の好みと繋がっていることに気づいて、バルテュスに不思議な縁を感じています。

21時過ぎ、都美を後に何処かなまめかしい空気の漂う不忍池の周囲を歩いて、帰路へ着いたのでした。

ド・ローラ節子が語るバルテュス 猫とアトリエ

ド・ローラ節子が語るバルテュス 猫とアトリエ