川端康成コレクション展@東京ステーションギャラリー


文豪川端康成が蒐集した美術品など多彩なコレクションを一堂に集めた展覧会が、先週まで、東京ステーションギャラリーで催されていました(〜6/19まで)。文学展というと作家の生原稿や蔵書或いは遺愛品等を陳列するのが一般的で、熱心なファン以外の鑑賞者にとってあまり興を惹くものではありません。

本展は、川端康成が身近に置いて愛でたアートコレクションを中心に展示するという点で異色の展覧会と云えます。川端と親交のあった東山魁夷古賀春江の作品をはじめ、今日では誰もが知る大家梅原龍三郎岸田劉生の油彩、ロダンの「女の手」などコレクションは多岐にわたります。海外での評価の方が高い現代作家草間彌生の渡米前の作品も含まれており、川端康成の慧眼に驚かされます。

路上で絵を売っていたところを彫刻家本郷新に見出された村上肥出夫の油彩2点が特に印象に残っています。絵具のマチエールを自在に活かした迫力に圧倒されました。世にあまり知られていない画家の才能を見抜く眼力が川端には備わっていたのでしょう。国宝の「十便十宜図」(樵便と宜風の展示日でした)と浦上玉堂の「凍雲篩雪図」もコレクションの一部です。後者は川端が入手してから国宝に指定されています。

もうひとつ、今回注目したのは未投函の伊藤初代宛て書簡でした。一高生だった川端康成が22歳のときに、岐阜の西方寺に身を寄せていたカフェ女給初代(15歳)に夢中だったことがよく分かります。その後、ふたりは婚約、直後に初代の方から破棄を申し出ます。かの文豪川端康成の筆かと疑うくらい、切羽つまって一気呵成に心情を吐露したような筆致でした。

日本の伝統文化の語り部たる川端康成の素顔に迫るユニークな展覧会でした(上の写真は土偶《女子》を前にした肖像写真です)。重要文化財である東京駅構内の東京ステーションギャラリーの設えも見どころのひとつです。創建当時のレンガが剥き出しになっている展示壁がアート作品と相性が良さそうです。今になって、昨年開催された「没後30年鴨居玲」展を見逃がしたのが悔やまれます。