4年ぶりとなる海老蔵の「助六」

歌舞伎座杮落し公演から4年(亡父団十郎の代役でした)、久しぶりに市川海老蔵の「助六」が歌舞伎座に戻ってきました。海老蔵歌舞伎座登場も去年の7月以来となれば、足を運ばないわけにはいきません。

助六」は、歌舞伎十八番では「勧進帳」と並ぶ人気演目で、正式には「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」といいます。歌舞伎の魅力満載の「助六」、これぞ歌舞伎、その所以を幾つかご紹介しておきましょう。


1)華やかな「出端(では)」
助六」の魅力は花道から登場する場面(「出端」といいます)に尽きるといっていいでしょう。「出端の唄」は「河東節(かとうぶし)」、蛇の目傘を手に、「むきみ」の隈取、紫鉢巻を巻いて黒羽二重姿で颯爽と登場する花川戸助六(実は曽我五郎)こそ、喧嘩っ早くて粋な江戸っ子のなかの江戸っ子。花道は「助六」のためにある舞台装置かと思わせます。

2)女形の華「傾城(けいせい)」
助六」の舞台は吉原仲之町。遊郭三浦屋の紅殻格子を背に絢爛豪華な打掛を羽織った花魁が妍を競います。白玉との「並び傾城」も見どころのひとつです。吉原一の花魁揚巻の立ち姿には観客が魅了されっ放しになること必定です。黒の打掛を一瞬で払って現れる真っ赤な打掛、その艶やかな扮装は舞台に欠かせない引き立て役です。五節句にちなんで衣装替えするところに注目です。立女形、三浦屋揚巻を演じるのは五代目雀右衛門、初役でした。色気といい気っ風の良さといい、見事な舞台だったと思います。

3)長台詞〜助六が白酒売りに呼び止められて名乗る〜
『いかさまなぁ。この五丁町(ごちょうまち)へ脛(すね)をふん込む野郎めらは、おれが名を聞いておけ。まず第一におこりが落ちる。まだいいことがある。大門をずっと潜るとき、おれが名を手のひらへ、三べん書いてなめろ。一生女郎にふられるという事がねえ。見かけは小さな野郎だが、胆が大きい。遠くは炭焼売炭(すみやきばいたん)の歯っかけ爺い、近くは山谷の古やりて梅干婆にいたるまで、茶飲み話の喧嘩沙汰、男達の無尽の掛け捨て、ついに引けをとったことのねえ男だ。江戸紫の鉢巻に、髪は生締め、それぇ、刷毛先の間から覗いてみろ。安房上総(あわかずさ)が浮絵のように見えるわ。相手がふえれば竜に水、金竜山の客殿から、目黒不動の尊像まで御存知大江戸八百八町に隠れのねえ、杏葉(ぎょよう)牡丹の紋付も、桜に匂う仲の町、花川戸の助六とも又、揚巻の助六ともいう若い者。間近くよって、面像(めんぞう)おがみ奉れ。』

4)通人の股くぐり
遊郭を訪れる通人(つうじん)と呼ばれる遊び人を捕まえては、股くぐりを強要する助六とその兄白酒売新兵衛(菊五郎)。これも「友切丸」捜索の一環には違いないものの、股座に消臭剤や香水を吹きかけたりと茶目っ気たっぷりの場面。江戸っ子のシンボル的存在助六が愛される所以のひとつは、ユーモア溢れる股くぐりにもあるのです。菊五郎の股をくぐれるのかと心配しましたが、上手く切り抜けてくれました((笑)。

江戸の粋と美学がつまった「助六」こそ、桜咲く春にうってつけの演目ではないでしょうか。おまけに、断トツのスパースター助六海老蔵のはまり役。色気も不良っぽさも今年不惑を迎える海老蔵で愉しむにかぎります。