伽藍を捨ててバザールに向かえ!・恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!

帯に書かれたタイトルの二行が気になって橘玲さんの最新作『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(幻冬舎)を買い求め一気に読みました。見城徹氏率いる幻冬舎は出版業界の風雲児だけあって本のネーミングや帯広告に耳目を驚かすものが少なくありません。かくいう自分も以前ブログで取り上げた『葬式は、要らない』然り、出版社の策略にまんまと嵌って斜陽の業界に貢献しているようです。それにしても本書の題名も読者を誘き寄せるに十分蠱惑的ではありませんか。著者は巻頭で社会現象にもなったカツマーXカヤマ―論争を引き合いに出しながら<やればできる>という仮説に疑義を唱えることからスタートします。これまで出来ないのは努力が足らないせいだ(或いは努力は報われる)と教わってきた世代には驚天動地の問題提起です。上杉鷹山が瀕死の米沢藩を立て直すために藩士に説いたという心構え「なせば成る、なさねばならぬ何事も・・・・」を好んで諳んじる自分も心中穏やかではありません。「やってもできない」事実を潔く認めて、その上でどう生きるかという成功哲学を構築すべきだと主張する筆者は、認知心理学や進化論、果ては行動遺伝学の最新の成果を持ちだしてきて「やってもできない」理由があり「自分は変えられない」と論証を重ねていきます。社会人として働き始めたばかりの世代には何とも残酷な話ですが「好きなことを仕事にすれば成功できる」という無謬神話にも落とし穴があると本書は指摘しています。極めつけは進化心理学を拠り所に「ぼくたちは幸福になるために生きているけれど、幸福になるようにデザインされているわけではない」という命題を読者に突きつけ、生き延びるためのnarrow pathを開拓せよと迫ります。70億のグローバル市場が誕生しつつある今、地球環境にも匹敵するこの複雑な生態系を生き延びる方法を探る上でweb 2.0市場経済に対する正しい理解が有効な手掛かりになるでしょう。冒頭の二行の謎解きは敢えてしませんので興味のある方は是非本書を手にとってみて下さい。

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法