浜田宏一氏の日銀批判

昨年12月、半ば敵失で自民党が政権を奪還して以来、金融緩和への期待が膨らみ円安が急速に進行しています。安部新政権発足後初の日銀金融政策決定会合を受けて、今日午後にも、政府・日銀による共同声明が発表され、2%の物価上昇目標が設定されるはずです。1%のインフレを「目途」とするというような中途半端な金融政策を掲げて当座凌ぎを繰り返してきた日銀が新政権から駄目だしを食らった格好です。

安部新政権の内閣官房参与のひとりで経済金融全般の指南役を務めるのが浜田宏一イェール大学名誉教授。浜田名誉教授が新年早々上梓された『アメリカは日本経済の復活を知っている』を読んで、リーマン・ショック以降の日本経済の低迷の主因が日銀の無策にあったことを再確認した次第です。

日本のデフレ基調と円高が収まらないのは日銀が2006年の量的緩和政策解除以来一貫してデフレ志向の金融政策を続けた結果だと、筆者は主張します。主張の核心を裏付ける資料は本書49頁に掲げられた2007年以降の先進国の中央銀行のバランスシート残高推移、これを見ると2008年9月(リーマン破綻が9/15)直後から、FRBイングランド銀行もバランスシートを2.5倍以上に急拡大させていることが分かります。これに対して、日銀のバランスシートは昨年までトレースしても1.5倍にさえ至っていません。これでは円高進行に歯止めがかからないわけです。

結果、円はドルに対して30%高くなり、他方隣国の韓国ウォンはドルに対して30%安、都合価格差60%のハンディキャップを背負わされた輸出産業界が経営不振に喘ぐのは理の当然です。エルピーダメモリ破綻の原因は欧州景気や経営の誤算ではなく円高に尽きると筆者は断定しています。過剰設備投資が原因で経営立て直しを迫られているシャープやパナソニックの場合も、円高によるボディブローが効いてきたからではないでしょうか。

経済学界の泰斗浜田氏曰く、日銀が世界の常識に反した金融政策を遂行した結果、日本経済は窮地に立たされたことになります。「金融政策はデフレ解消に効くとは限らない」と主張してきた日銀は、安部政権発足後の(金融緩和)アナウンスメント効果による円安進行に対してどう釈明するのでしょうか。

本書は日銀批判に加え、ベストセラーになった『デフレの正体』(藻谷浩介著)の過ちを指摘したり、雇用調整助成金制度が日本の失業率を低く見せかけている点を明らかにするなど、示唆に富む内容を併せもっています。残念なことは、浜田名誉教授の指摘するようにデフレ脱却の方途(量的緩和の推進)が経済学の基本理論に照らして自明にも拘わらず、リーマン破綻以降5年の長きにわたりこうした無策状態(或いは量的緩和不足)が放置されてきたことです。経済音痴の政治家の責任は重大です。加えて、経済問題に疎い全国紙が的確に円高デフレの原因を究明してこなかったことや、中央銀行に阿る経済学者や民間エコノミストが金融政策全般について批判的分析を怠ってきたことも一因ではなかったかと思えてなりません。

アメリカは日本経済の復活を知っている

アメリカは日本経済の復活を知っている