お世話になった懐かしき「大学受験ラジオ講座」

9/2付朝日新聞夕刊に、大学受験勉強中にお世話になった「大学受験ラジオ講座」(以下:「ラ講」)に関する記事が掲載されていました。1952年に始まり95年まで続いていたと知って吃驚。

寄稿者の姫野カオルコさんは「テーマ曲のブラームス『大学祝典序曲』を聞くと、青春の夜がよみがえります」と述べています。まったく同感です。同時刻に全国の高校生が聴講しているという目に見えない連帯感が大きな支えでもありました。勇ましいテーマ曲のお蔭で眠気が吹き飛んだ夜も数え切れません。

一番熱心に聴いていたのは寺田の数学でした。過去問を中心に解法を説く「ラ講」は頗る実践的で、1問片付ける度に「はい、これで〇〇大学合格!」という寺田先生の力強い言葉にずいぶん励まされました。寺田の鉄則は実際の受験で真価を発揮してくれました。この記事で当時の記憶が喚起されたわけですが、1回24分半だったのですね。講師の肉声だけの方が、却って集中力を昂めてくれたように思います。

当時、「ラ講」の効用に至って鈍感でしたが、思えば有名予備校や塾は大都市に偏在していて、学びの地域格差を解消しようという旺文社創業者の赤尾好夫氏の狙いは誠に時宜を得たものでした。

「元祖リモート教育 DNAは今も」という大見出しに大きく頷いてしまいました。コロナ禍で大学に通えない不便など、スマホ世代には幾らでも克服する術があるはずです。どんなに便利になった今でも、深夜独りで聴くラジオへの郷愁は人一倍強いと自負しています。

満開のキバナコスモス@国営昭和記念公園

先週末、数年ぶりに国営昭和記念公園を訪れました。秋恒例のイベント「コスモスまつり 2020」2日目の9月13日、なんとかお天気がもちそうだったので、お目当てのキバナコスモス見たさに立川まで車で遠征したというわけです。駐車場も、立川口、西立川口、砂川口と3ヶ所ありますから、立川以東からアプローチする場合、立川駅に違い立川口駐車場が便利です。それにしても、9月は例年雨の日が多いので、出鼻を挫かれることも覚悟しておきましょう。終日雨天だった土曜日を見送って正解でした。


↑ ブドウの実に見えますが、実は銀杏です。

ひと口にキバナコスモスと云っても種類は様々で、「みんなの原っぱ」の「東花畑」一面に拡がるのはレモンブライトと云う品種だそうです。キバナと聞くと濃い黄色をイメージしがちですが、レモンブライトという品種名の方が爽やかで、実際見た印象に近い気がします。今が旬、70万本のキバナコスモス・レモンブライトが出迎えてくれます。

南北400m・東西300mに及ぶ広大な原っぱ(「みんなの原っぱ」)の中央に、公園のシンボルツリー、ケヤキの大木がそそり立っています。このシンボルツリー(奥中央、手前の背の高い樹はモミの木?)をバックに撮影したら、いい絵になりました。トイプードルやチワワなどの小型犬をバスケットに乗せて写真撮影する女性の姿が目立ちました。下の写真の通路にもトイプードルが映り込んでいます。

満開の花畑には「ドラえもん」の「どこでもドア」のような黄色い扉が設置してあって、一番人気の撮影スポットでした。キバナコスモスの葯に蜜蜂が群れていたので、養蜂でもと思いきや、現に昭和記念公園産ハチミツが販売されているようです。

「東花畑」から北へ進むと「花の丘」と呼ばれるコスモス畑があります。こちらは10月中旬から下旬が見頃だそうです。日本的なネーミングの「あかつき」や「日の丸」はちらほら開花しています。

久しぶりに昭和記念公園を歩いて回ると、5時間近く掛かりました。スマホの万歩計は2万歩を突破。公園敷地は、戦前旧立川飛行場があった場所で戦後は米軍が立川基地として利用していたので、尋常ならざる広さを誇るわけです。身体が不自由な方は、園内を周回するパークトレイン(1回310円)を利用するといいでしょう。休憩施設やアトラクションも充実しているので、これからの秋本番、オススメの日帰りスポットだと断言しておきます。

TOPS定番「チョコレートケーキ」で祝うバースデー

昨夜、とっくに成人している長男のXX歳のバースデーをお祝いしました。

妻「ケーキでも買っておいたら?」
夫「そんな歳じゃない・・・要らないんじゃないの!」

そんな押し問答の挙句、夕方、近所のデパートに自転車を走らせ、TOPS定番の「チョコレートケーキ」を買うことにしました。律儀な長男は、家族の誕プレを欠かさないのでお返しは必要だと思い直したからです。店員さんが、蝋燭とチョコレートプレートを用意してくれるというのでお願いしました。

生クリームや素材に煩い妻はショートケーキにもこだわります。クリスマスシーズンともなれば、ご用達のケーキ屋さんは決まっていて、大量にクリスマスケーキを販売する店舗の品には絶対に手を出しません。

ところが、TOPSの「チョコレートケーキ」だけは持ち帰ればいつも歓迎されるのです。TOPSのケーキの歴史は、赤坂にあった旧TBS会館のレストランのデザートに遡ります。赤坂の地で産声を上げて50年有余年ということになります。あまりの美味しさに持ち帰りを希望するお客さんが増え、店舗販売が始まったそうです。商品の説明書きにはこうあります。

クルミの入ったチョコレートケーキでスポンジをサンド、スイスチョコレート入りのチョコレートクリームで仕上げました>

実にシンプルなケーキですが、甘さ控えめのチョコレートクリームと胡桃の混ざったスポンジケーキの食感が絶妙で何度食べても飽きることがありません。さすがTOPS最強定番商品だけあります。実はTOPSのほかのケーキを食べたことがありません(-_-;)・・・珈琲とともに頂いても勿論美味しいのですが、真っ赤なローズヒップティーとの相性がいいようです。付け合わせに妻がシャインマスカット(本人の大好物です)を用意しました。なかなかいい取り合わせです。

4~5名様用のレギュラーサイズ(1850円+税)を買い求めましたが、3等分して丁度いいくらいです。4人家族の場合、ひとまわり大きいLサイズを買った方がいいかも知れません。

<サコッシュ>を買って気づいた空前のブーム!?と便利さ

外出するときは手ぶらを好みます。その結果、ジーンズの前ポケットにはキーホルダー、後ろポケットはカードがぎっしり詰まった財布やスマホで膨れ上がり、どうにも不格好です。こうなると、うっかりスマホや財布を落としたり掏られたりするリスクが気懸かりです。ランニングのときは小型のウェストポーチを身に着けますが、収納力に限りがあって、タウンユースには不向きです。

7月1日からレジ袋が有料化されたので、コンパクトなエコバッグを常時携帯する必要性にも迫られています。

そこで、タウンユースのみならずアウトドアでも活躍してくれそうな、使い勝手が良くて軽量なバッグを物色し始めました。当初、漠然とショルダーバッグをイメージしていたのですが、あれこれ探しているうちに、<サコッシュ>と呼ばれるバッグにたどり着きました。<サコッシュ>("sacoche")は、フランス語でカバンや袋のことで、ツール・ド・フランスに代表される自転車レースにおいてレーサーがドリンクや補給食を入れるためのバッグが発祥なのだそうです。一般的に、袋部分にマチがないため平べったくて軽量素材で作られます。同じフランス語に、<ポシェット>("pochette")という言葉がありますが、小袋というニュアンスで、こちらは元来女性向けバッグのようです。末尾にご紹介するように、フランス語にはカバンを表現する言葉がたくさんあるのですね。

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石井スポーツを覗くと、店頭に多種多様な<サコッシュ>が並んでいて吃驚。思案の末、厚めの生地を使った頑丈そうな作りの米GREGORY社製<サコッシュ>(価格:5500円)を選びました。カラーは、写真のようなブラックガーデンタペストリー(2019年限定カラー)というシックな色合いにしました。外側はナイロン100%でメッシュのポケット付き、目薬やリップクリームを収納するのに便利です。内側スペースはかなりゆとりがあって、財布やスマホも十分収まります。アウトドアシーンでは地図やコースメモを収納するのに適しています。何といっても最大の利点は、身体にフィットして両手が空くということです。

いざ街を歩いてみると、年齢性別にかかわらず、<サコッシュ>を身に着けた人を大勢見かけました。ボディバッグ派を上回っている印象です。ボディバッグとの明確な違いは、ナイロンなど嵩張らない軽量素材を使っていて、マチが殆どないため身体に沿うようにフィットする点ではないでしょうか。小さく折りたたんで収納できるので、バッグインバッグとしても使える汎用性も魅力です。

値段が手頃なので、ファッションアイテムとしてもうひとつふたつ違ったタイプを探してみようかと思っているところです。

参考:フランス語のカバン

le sac à main ハンドバック
le sac à bandoulière ショルダーバック
la pochette ポシェット、(紙・布・ビニールなどの)小袋
le petit sac ポーチ
la serviette ブリーフケース、書類ケース
la sacoche (革製の)かばん
l'attache-case アタッシュケース
la valise スーツケース
la malle 大型トランク、旅行用大かばん
le fourre-tout トートバッグ、手さげ袋
le cabas デイパック、(わら・プラスチックなどで作った)買い物かご
le sac à dos リュックサック

たかがTシャツされどTシャツ〜『村上T』を読んで〜

最近、村上春樹の小説は進んで読む気がしません。2009年〜2010年にかけて刊行された『1Q84』シリーズを分岐点に、村上ワールドからは遠ざかっています。デビュー当時の瑞々しい作品群はともかく、今では、肩の力を抜いた軽快な語り口のエッセイやマラソン・音楽をテーマにしたノンフィクションを贔屓にしています。肉声の聴ける東京FMの村上ラヂオもたまに聴いて愉しんでいます。

今年6月に刊行された『村上T 僕の愛したTシャツたち』は、装幀に惹かれて衝動買いしました。出版社はマガジンハウス。縦140×横135mmという正方形に近いブックサイズがハンディでオシャレです。表紙にはビーチサンダルでコーラの一部ロゴを隠した赤いTシャツが、カバーを剥ぐと”TONY”TAKITANIと書かれた黄色いTシャツが現れます。裏表紙然りです。かくして、108枚のTシャツが18篇のエピソードと共に紹介されています。

71歳になった村上春樹の近影を見ると、今や、好々爺の風情。それでも、Tシャツが似合うお爺さんというのはカッコイイものです。アメリカ文学の影響を強く受けた村上春樹にTシャツほどピッタリくるカジュアルウェアは他にありません。

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僕が人生においておこなったあらゆる投資の中で、それは間違いなく最良のものだったと言えるだろう。――「まえがき」より。

「つい集まってしまったTシャツ」というキャッチフレーズは、村上春樹の本心であろうはずがありません。ショップを見つけたら必ず物色する、コレクターの性とはそういうものでしょう。驚いたのは、村上春樹の短編のなかでもお気に入りの佳作「トニー滝谷」が、マウイ島で買った1ドルのTシャツに触発されて書かれたこと。作家の縦横無尽な想像力には恐れ入ります。

レコード、車、大学、熊、ウイスキー、ビールなどなど、紹介されている安価なTシャツ一枚一枚に思い出やエピソードが詰まっていて、なかなか手放せないのがよく分かります。ハインツのケチャップTシャツ(“I PUT KETCHUP ON MY KETCHUP”) なんて、ケチャップ好きのアメリカ人を揶揄した傑作です。コレクションのなかには、「気を落ち着けて、ムラカミを読もう」と英語で書かれたノベルティTシャツがあって、本人は気恥ずかして着用できないそうです。村上ファンなら是非とも欲しい一点でしょう。

最近、自分もUTを愛用していて、夏場、スポーツジムに通うときは大抵ジーンズにTシャツ姿です。種類豊富なUTは、殆ど被らないので安心です。ひと目で柄が分かるような図柄は避けて、目を凝らして見ないと意匠が定かではないアルファロメオ(遠目で車には見えます)やネイビーブルーの獺祭Tシャツを愛用しています。

『村上T』掲載の108枚で気に入ったのは、高尚な英国経済誌エコノミスト』の赤いTシャツとハイネケンのTシャツ。30代前半、真夏のセントラルパークで「ハイネケンバドワイザー」と連呼する売り子から缶ビールをよく買ったものです。

Tシャツといえば灼熱の夏、<Tシャツにはビールがよく似合う>。『村上T』を読んでいるうちに、無性に内外ビール会社のロゴをあしらったTシャツを蒐集したくなりました。

禅語に学ぶ〜「日日是好日」&「独坐大雄峰」〜

今年もあと3ヶ月半、2月下旬から俄かに拡大の一途をたどったコロナ禍は8ヶ月目に突入したことになります。マスク着用マストの不自由なニューノーマルは一体いつまで続くのでしょうか。副作用のないワクチンが一刻も早く開発され、国民に行き渡って<ウィズ・コロナ・ライフ>にピリオドが打たれることを切に願って止みません。

幸い、自分も含め戦後生まれの人間は、戦禍によって命の危険に晒されたり飢餓に苛まれることなく、平和裡に豊かな否豊饒飽食の時代を生きてきました。世界には内戦や飢餓で苦しむ人々は数知れず、世界人口の半数以上が水道水を利用できるようになった今でも、ユニセフによれば、6億63百万人もの人々が安全な水を確保できない現実があります。

コロナ禍は、ある意味、快適な暮らしを求め化石燃料を燃焼し続け地球温暖化を加速させてきた人類への警告だと受け止めています。コロナ以前から、今を生きるべきか、ときどき、手許に置いている禅語の本を紐解くことにしています。

この試練の時代、一番心に響く言葉は日日是好日ではないでしょうか。宮沢賢治は病気から恢復したあと、外を自由に歩き回れることは本当に奇蹟みたいなことだと言ったそうです(『声に出して読みたい禅の言葉』より)。緊急事態宣言が解除されたとき、一様に感じた安堵感にも通じます。人口に膾炙したこの言葉を反芻しつつ、日頃から、曇天や雨天を恨めしく思わないことにしています。逆境も好日と受け止める姿勢が、却って心の安寧をもたらすように思います。玄侑宗久さんの『禅的生活』(ちくま新書)には、「本来、あらゆる瞬間は独立していると禅は考える」とあります。因果に落ちず今を楽しめということなのだそうです。「遊戯三昧」も「日日是好日」に通じ、「楽しいことをする」のではなく「することを楽しむ」と禅は発想するわけです。

臨済宗公案を集めた『碧巌録」に「独坐大雄峰」という言葉があります。ある僧が百丈懐海禅師にこう尋ねます。

「如何なるか是れ奇特の事」(この世で一番尊いものは何でしょうか)

百丈禅師はこう答えます。

「独坐大雄峰」(素晴らしいことはこうして独り高山に坐っていることだ)

禅師は、自分がこの世にどっかと存在していること(こうして今を生きていること)は何と素晴らしいことだと述べているのです。臨済宗妙心寺派大澤山龍雲寺(東京都世田谷区)のHPに、分かりやすい例えが掲載されていたのでご紹介しておきます。

【龍雲寺HPより】

大正時代の初めに、尾崎放哉(一八八五~一九二六年)という放浪の詩人がいました。この人は、東京大学を出て保険会社の支店長にまでなったのですが、三九歳の時に家族、財産の一切を放り出して放浪の生活に出たのです。彼がこういう句を作っています。「爪を切った指が十本ある」―。爪を十本切った、そうしたら指が十本ある。爪を切り終わって広げてみたら十本ある。ごく当たり前の話です。しかしそれを当然と取らずに、不思議と驚きとで十本の指を見るところ、ここにかけがえのない自分、まさに不思議な自分というものがここにある、ということを率直に表した句です。こういうところが「独坐大雄峰」ということに通じるのではないかと思います。

禅的生活 (ちくま新書)

禅的生活 (ちくま新書)

コロナ禍の三鷹の森ジブリ美術館~建物内外のディテールへのこだわりに注目~

先月下旬、久しぶりに自宅から徒歩圏にある三鷹の森ジブリ美術館(以下:「ジブリ美術館」)を訪れました。2月下旬から新型コロナウイルス感染拡大防止のために休館を続けていましたが、7~8月は地元三鷹市民を対象に抽選招待制で開館していたからです。9月からは開館時間を短縮して通常開館されますが、11~12月はメンテナンスで再び長期休館となるようです。コロナ禍が収束するまで、これまで来館者の約1割を占めていた外国人観光客の来日は困難なので、コロナ前より完全予約制のチケットは入手しやすくなるでしょう。三鷹市民が優遇されていることを訝しく思う方もいるかと思いますが、「ジブリ美術館」の建物(建設費25億円+準備費用19億円)は三鷹市に負担付きで寄付されたものです。一方、指定管理者である徳間記念アニメーション文化財団三鷹市が年間5000万円の指定管理料プラス140万円の事業委託費を支払っているため、毎年、納税者である三鷹市民は都民の日などにこうした恩恵に浴するチャンスがあるというわけです。


2016年7月リニューアルOP直後の写真です。お化粧直しがなされ開館当時の鮮やかな外観が蘇りました。

前置きはこれくらいにして本題に入ります。今回はジブリ作品から離れて、建物のデザインや意匠、仕掛け、動線などディテールへのこだわりについて、徹底解説しようと思います。19年前の2001年10月1日に「ジブリ美術館」が開館して以降、10回以上訪れていますが、ちびっ子は言うに及ばず大人までをも虜にする宮崎駿ワールドの魅力は依然健在といっていいでしょう。すでに累計1000万人の来館者を達成し、コンスタントに内外から年間60万人以上の来館者を引き寄せるのはその証と言えます。内部の写真撮影は禁じられていますので、ご紹介する写真は専ら外観や屋上に限らせて頂きます。

玉川上水に架かる万助橋から吉祥寺通りを南下すると数分で「ジブリ美術館」に到着です。重厚な門扉にはジブリのクレスト(紋章)があしらわれています。三羽の鷹で三鷹、イノシシは建物の敷地である井の頭恩賜公園に由来(「猪の頭」)、トトロといえばジブリの代表作で雑木林とベストマッチです。ジブリの館にふさわしいクレストです。アプローチや通路の石垣のところどころにクレストを象った特注煉瓦が嵌め込まれています。

ジブリ美術館」を訪れた方なら必ず記念撮影するスポット、トトロのいる受付はウキウキするようなギミック(仕掛け)です。本当の受付は少し進んだ左手にあります。ギミックの受付下部や建物地下井戸の傍には、格子から<まっくろくろすけ>が所狭しと顔を覗かせています。

受付で3コマの35mmフィルム付き入場券を受け取ります。リピーターの楽しみのひとつはこの入場券を蒐集することです。ここでも、宮崎駿監督の粋な計らいに感心させられます。主人公のキャラクターが大映りになったフィルムをゲットしようものなら、大人でさえニンマリしてしまいます。因みに、フィルム付き入場券は映像展示室「土星座」=ミニシアターの入場券もかねています。

天井にフレスコ画が描かれた受付(エントランス)を過ぎると、地下に向かってなだらかなスロープを下って展示室へと誘われます。地下1階右手にはアニメーションの原型「ゾートロープ」が展示されていて、アニメーションの起源を遡ることができます。なかでも「トトロぴょんぴょん」と名付けられた立体「ゾートロープ」は圧巻です。1秒間に回転盤が一周し、発光ダイオードの照明が18回明滅するのだそうです。何度見ても唸ってしまうほどの見事な出来栄えです。この展示室には歴代ジブリ作品のショーケース(ドールハウスならぬ「ジブリハウス」)があるのですが、観音開きの扉を開けてみれば『千と千尋の神隠し』の食卓(駿監督のフィギュアも!)が現れたりして、サプライズ演出はとどまるところを知りません。

建物全体は、地下から2階天蓋まで吹き抜けで実に開放感溢れる設えになっています。ジブリの世界観を凝縮したステンドガラスの窓から差し込む光と影が織りなす美しいコントラストに、誰しもふと足を止めてしまうことでしょう。1階には大人であれば腰を屈めないと入れないニッチェがあって、恰も隠れん坊のためにあるようです。「迷子になろうよ、いっしょに。」というキャッチフレーズそのままです。エレベーターの階数表示にはレトロな矢印針が使われています。内階段には通常階段以外に螺旋階段が設けられています。2階の南北通路はブリッジになっており、階下を見下ろすことができます。トイレや壁のニッチェにも覗いてみましょう。

ディテールへのこだわりはこんな所にも!

ひと通り、館内を巡り屋上からの景色を楽しんだあとは、図書閲覧室「トライホークス」やグッズショップ「マンマユート」でお買い物。ひと息つきたければ戸外に出て、併設カフェ「麦わらぼうし」で腰を下ろすといいでしょう。木立の風を感じながら、大人は「風の谷ビール」で喉の渇きを潤すにかぎります。

館主の宮崎駿さんは公式図録のインタビューでこんなふうに語っています。

<年を経るにしたがってどんどんよくなっていくのが、いい建物なんだと思っています>

新宿の高層ビル群や渋谷などの再開発エリアで雨後の筍の如く林立する商業ビルは、ただただ経年劣化していく運命にあります。2016年のリニューアルを挟んで開館して早19年、建物は周囲の自然としっかり溶け込んで、館主の狙いどおりいい意味で年輪を重ねています。屋上庭園の草木とロボット兵も然りです。

遊び心満載の空間構成は、これからも来館者の心を掴んで離さないことでしょう。ジブリ美術館の小宇宙をぎっしり詰め込んだお気に入り限定コレクションボックスの写真をご紹介しておきます。