コロナ禍の三鷹の森ジブリ美術館~建物内外のディテールへのこだわりに注目~

先月下旬、久しぶりに自宅から徒歩圏にある三鷹の森ジブリ美術館(以下:「ジブリ美術館」)を訪れました。2月下旬から新型コロナウイルス感染拡大防止のために休館を続けていましたが、7~8月は地元三鷹市民を対象に抽選招待制で開館していたからです。9月からは開館時間を短縮して通常開館されますが、11~12月はメンテナンスで再び長期休館となるようです。コロナ禍が収束するまで、これまで来館者の約1割を占めていた外国人観光客の来日は困難なので、コロナ前より完全予約制のチケットは入手しやすくなるでしょう。三鷹市民が優遇されていることを訝しく思う方もいるかと思いますが、「ジブリ美術館」の建物(建設費25億円+準備費用19億円)は三鷹市に負担付きで寄付されたものです。一方、指定管理者である徳間記念アニメーション文化財団三鷹市が年間5000万円の指定管理料プラス140万円の事業委託費を支払っているため、毎年、納税者である三鷹市民は都民の日などにこうした恩恵に浴するチャンスがあるというわけです。


2016年7月リニューアルOP直後の写真です。お化粧直しがなされ開館当時の鮮やかな外観が蘇りました。

前置きはこれくらいにして本題に入ります。今回はジブリ作品から離れて、建物のデザインや意匠、仕掛け、動線などディテールへのこだわりについて、徹底解説しようと思います。19年前の2001年10月1日に「ジブリ美術館」が開館して以降、10回以上訪れていますが、ちびっ子は言うに及ばず大人までをも虜にする宮崎駿ワールドの魅力は依然健在といっていいでしょう。すでに累計1000万人の来館者を達成し、コンスタントに内外から年間60万人以上の来館者を引き寄せるのはその証と言えます。内部の写真撮影は禁じられていますので、ご紹介する写真は専ら外観や屋上に限らせて頂きます。

玉川上水に架かる万助橋から吉祥寺通りを南下すると数分で「ジブリ美術館」に到着です。重厚な門扉にはジブリのクレスト(紋章)があしらわれています。三羽の鷹で三鷹、イノシシは建物の敷地である井の頭恩賜公園に由来(「猪の頭」)、トトロといえばジブリの代表作で雑木林とベストマッチです。ジブリの館にふさわしいクレストです。アプローチや通路の石垣のところどころにクレストを象った特注煉瓦が嵌め込まれています。

ジブリ美術館」を訪れた方なら必ず記念撮影するスポット、トトロのいる受付はウキウキするようなギミック(仕掛け)です。本当の受付は少し進んだ左手にあります。ギミックの受付下部や建物地下井戸の傍には、格子から<まっくろくろすけ>が所狭しと顔を覗かせています。

受付で3コマの35mmフィルム付き入場券を受け取ります。リピーターの楽しみのひとつはこの入場券を蒐集することです。ここでも、宮崎駿監督の粋な計らいに感心させられます。主人公のキャラクターが大映りになったフィルムをゲットしようものなら、大人でさえニンマリしてしまいます。因みに、フィルム付き入場券は映像展示室「土星座」=ミニシアターの入場券もかねています。

天井にフレスコ画が描かれた受付(エントランス)を過ぎると、地下に向かってなだらかなスロープを下って展示室へと誘われます。地下1階右手にはアニメーションの原型「ゾートロープ」が展示されていて、アニメーションの起源を遡ることができます。なかでも「トトロぴょんぴょん」と名付けられた立体「ゾートロープ」は圧巻です。1秒間に回転盤が一周し、発光ダイオードの照明が18回明滅するのだそうです。何度見ても唸ってしまうほどの見事な出来栄えです。この展示室には歴代ジブリ作品のショーケース(ドールハウスならぬ「ジブリハウス」)があるのですが、観音開きの扉を開けてみれば『千と千尋の神隠し』の食卓(駿監督のフィギュアも!)が現れたりして、サプライズ演出はとどまるところを知りません。

建物全体は、地下から2階天蓋まで吹き抜けで実に開放感溢れる設えになっています。ジブリの世界観を凝縮したステンドガラスの窓から差し込む光と影が織りなす美しいコントラストに、誰しもふと足を止めてしまうことでしょう。1階には大人であれば腰を屈めないと入れないニッチェがあって、恰も隠れん坊のためにあるようです。「迷子になろうよ、いっしょに。」というキャッチフレーズそのままです。エレベーターの階数表示にはレトロな矢印針が使われています。内階段には通常階段以外に螺旋階段が設けられています。2階の南北通路はブリッジになっており、階下を見下ろすことができます。トイレや壁のニッチェにも覗いてみましょう。

ディテールへのこだわりはこんな所にも!

ひと通り、館内を巡り屋上からの景色を楽しんだあとは、図書閲覧室「トライホークス」やグッズショップ「マンマユート」でお買い物。ひと息つきたければ戸外に出て、併設カフェ「麦わらぼうし」で腰を下ろすといいでしょう。木立の風を感じながら、大人は「風の谷ビール」で喉の渇きを潤すにかぎります。

館主の宮崎駿さんは公式図録のインタビューでこんなふうに語っています。

<年を経るにしたがってどんどんよくなっていくのが、いい建物なんだと思っています>

新宿の高層ビル群や渋谷などの再開発エリアで雨後の筍の如く林立する商業ビルは、ただただ経年劣化していく運命にあります。2016年のリニューアルを挟んで開館して早19年、建物は周囲の自然としっかり溶け込んで、館主の狙いどおりいい意味で年輪を重ねています。屋上庭園の草木とロボット兵も然りです。

遊び心満載の空間構成は、これからも来館者の心を掴んで離さないことでしょう。ジブリ美術館の小宇宙をぎっしり詰め込んだお気に入り限定コレクションボックスの写真をご紹介しておきます。