屋久島3泊4日の旅(後篇その2)|10年ぶりの<ヤクシマシャクナゲ>当たり年に宮之浦岳登頂

「淀川登山口」で軽く屈伸運動をして登山開始、30分ほど歩いたらログハウスのような「淀川小屋」に着きました。前日の縄文杉トレッキングで十分過ぎるほど雨に降られたご褒美でしょうか、屋久島3日目は望外の晴天に恵まれました。梢から差し込む早朝の日差しを浴びて気分は上々、山の神様のお計らいに感謝の言葉がありません。淀川小屋で朝食のおにぎり弁当を平らげていると、前日、縄文杉トレッキングで見かけた2組のツアーがやって来ました。ひとつしかない男女共用のトイレの前に一斉に7~8人が並びます。あたりが騒々しくなってきたので、休憩をそこそこに先を急ぐことにしました。すぐ先の淀川に架かった橋からの景色は一見の価値ありです。少し立ち止まって、透明感溢れる清冽な流れを眺めました。

登山道はよく整備されています。木道のステップに鉄製の滑り止めが施されている箇所もあって、登山者への配慮が行き届いています。

登山開始から2時間が過ぎたあたりで左手の視界が拓け、標高1711mの「高盤岳(こうばんだけ)」山頂の「トーフ岩」が目に飛び込んできました。その名称どおり、お豆腐を等分に切り分けたような形状をしています。地中深くから隆起する過程で巨大な花崗岩に圧力がかかり亀裂が走ります。そこへ雨水が入り込み、冬場に水分が凍結し膨張することによって、長い年月をかけて巨岩を穿っていったのでしょう。思わずため息が漏れるような自然の造形美です。


無名の展望所から太忠岳・天柱石を望む

その先20分ほど進むと、地図に載っていない展望所がありました。こちらが「高盤台展望所」かと思ったくらいです。写真・上のような矢印に従って進むと、全体が白っぽく見える巨石が現れ、一気に眺望が拓けます。座り込んで巨石をよく観察してみると「正長石」と呼ばれる結晶が浮き出ていることに気づきます。真正面に見えるのは「太忠岳(たちゅうだけ)」(標高1497m)の巨石「天柱石」です。密かに「太忠岳展望所」と命名しておきます。時間的制約から、初日のヤクスギランドは80分コースでお茶を濁しましたが、ヤクスギランド入口を起点に片道4時間登れば「太忠岳」に登頂できます。次の機会に是非とも攻略したいスポットです。


花之江河から黒味岳を望む

日本最南端の高層湿原域が「小花之江河」から「花之江河(はなのえごう)」一帯です。尾瀬ヶ原を彷彿させる佇まいです。「花之江河」にはベンチが設置され、ランチ休憩にもってこいのスポットです(下山の際に立ち寄って、祠の前で遅い昼食を摂りました)。何と言っても眼前の「黒味岳」(標高1831m)を望む景色が秀逸です。ザックから行動食を取り出して食べていると、中年の男性が「最近、誰もヤッホーしないんだよね~」と呟きながら、「黒味岳」の山頂で佇む登山者に向かって「ヤッホー」と大声で叫びました。ヤマビコは返ってきませんでしたが、清々しい気分に包まれました。

「黒味分れ」を過ぎるとロープ場が次々と現れ、本格的な登山らしくなってきます。「投石湿原」を経て「黒味岳」と「投石岳」の鞍部・「投石平(なげしだいら)」までたどり着くと、展望が拓けて巨石群が現れます。ここまで来ると、お天気次第ですが、めざす「宮之浦岳」が姿を見せてくれます。屋久島の中央部に位置する「宮之浦岳」は、島の外周部すなわち麓から決してその姿を窺うことができません。だからこそ、遥々「宮之浦岳」をアタックする価値があるのです。

以前なら6月上旬に咲き誇ったヤクシマシャクナゲの見頃が、近年少しずつ早まっているようです。地球温暖化の影響なのでしょう。今回の屋久島遠征のプランニングにおいて、最も悩んだのがいつ訪れるべきかという点でした。梅雨や台風シーズンは論外として、渋滞回避の観点から、登山者が列をなすGWや夏休みも除外しました。秋も良さそうですが、咲き誇る<ヤクシマシャクナゲ>の群生を見たいという一心から今回の日程(5月18日~21日)に決めました。


宮之浦岳直前の笹原

首尾は上々でした。2014年以来10年ぶりの<ヤクシマシャクナゲ>の当たり年に遭遇できた上、心地良いそよ風が吹く快晴の気象条件の下だったのですから。1700mを過ぎると森林限界です。「白骨樹」(写真・上)を横目に<ヤクシマダケ>が生い茂る細い山道を進み、少しずつ標高を上げていきます。奇岩と笹原からなる特徴的な景観が、「宮之浦岳」一帯の余所にはない大きな魅力ではないでしょうか。「安房岳」⇒「翁岳」⇒「栗生岳」を経て、ようやく「宮之浦岳」の頂きを極めることが出来ました。頭で分かっていても、直前の偽ピークが「宮之浦岳」の山頂に見えてならず、フェイク・ピークを乗り越える度に気持ちをリセットしました。


山頂より西を望む(中央が永田岳・左は国割岳・右はネマチ・小さな島は「口永良部島」)

登頂時刻は10時30分過ぎ、登山開始から5時間弱が経っていました。九州本土方向に目を遣ると、薩摩富士こと「開門岳」がポッカリ浮かんだように見えます。西の方角に迫って見えるのが、薩南火山群島最大の火山島・「口永良部島」(噴火警戒レベル3)です。屋久島は火山ではないので、そもそも「口永良部島」とは地質学的に成り立ちが違うのでしょう。山頂標識の背後に見えるのが細長い「種子島」です。視界は良好、360度パノラマを満喫しながら、inゼリーでエネルギーを補給しました。

山頂では夥しい数のウンカが発生していて、頭部に集るので閉口しました。蚊取り線香を持参しながら火種を忘れた男性2人組から、ライターやマッチを持っていないかと尋ねられましたが、生憎持ち合わせておらず、ウンカを撃退する術はありません。下山路の水溜りでも度々大量発生しているウンカを見かけました。

栗生岳を過ぎたあたりの下りで小学生くらいの軽装の男の子がひとりで勢いよく駆け登ってきます。お母さんたちは後から追いかけて来るのだそうです。更に15分ほど下ると、「男の子を見かけませんでしたか」と声をかけてきた母親とその姉妹?と出くわし立ち話。<ヤクシマシャクナゲ>の咲く毎年この時期、家族で「宮之浦岳」登山をなさるそうです。今年の<ヤクシマシャクナゲ>の開花状況は、ローカルTVが取り上げられるくらいの当たり年なのだそうです。周囲を見渡せば、深紅の蕾がピンク色に開花しやがて淡いピンク、白へと変化する<ヤクシマシャクナゲ>が今が盛りと全山を彩っています。


手前:開花したばかりのヤクシマシャクナゲ(その先で雲が湧いてきました)

この千載一遇を前にして形容し難い幸福感に包まれました。