弘前市街から八甲田山の登山口のある酸ヶ湯温泉までクルマで約1時間半の道程。急遽決めた今回の山行スケジュールに、かなり前から手配してあった「酸ヶ湯温泉旅館」が上手く嵌って、紅葉シーズン真っ盛りの八甲田山登山・・・となる筈でした。理由はのちほど説明させて頂きます。
2日目の午後、一路、酸ヶ湯温泉をめざしてクルマを走らせます。目的地「酸ヶ湯温泉旅館」の手前には青森県有数の絶景スポット「城ヶ倉大橋」があります。全長360メートル、アーチ支間長255メートルの日本一の上路式アーチ橋「城ヶ倉大橋」からの眺めは圧巻です。「城ヶ倉大橋」手前の駐車場にクルマを滑り込ませた頃には、翌日を暗示するかのように雲行きが怪しくなりかけていました。写真(上)は、お天気が崩れる前の「城ヶ倉渓谷」です。この景色を目に焼きつけられただけでも、遥々、東京からやってきた甲斐があったというものです。
宿泊先「酸ヶ湯温泉旅館」は、「ヒバ千人風呂」で全国的に知られる湯治場です。外観は思ったより立派な佇まいで想像していた秘境の宿とは少し違っていました。写真後方が八甲田山です。次々と宿泊客が訪れるのでチェックインまでしばらく待たされます。例年、紅葉時期が終わるまで満室が続くのだそうです。案の定、チェックインを済ませると強い雨が降り出したので、周辺のお散歩を諦めて「ヒバ千人風呂」へ直行しました。酸ヶ湯温泉名物「ヒバ千人風呂」は、想像どおりの古色蒼然とした趣の大浴場でした。洗い場がないので、男女別の「玉の湯」で身体を洗ってから浸かるのがいいでしょう。ph2という強酸性温泉ですから長湯は禁物です。唇に触れると酸っぱい味がします。温度が高めの建物奥にある大きな「四分六分の湯」にしばらく浸かって旅の疲れを癒しました。普段から寝つきが悪いにもかかわらず、温泉効果でしょうか、すぐに眠りに就くことができました。
翌朝、5時前に起床すると雨が上がっていてホッとしました。朝食前に登山口の確認方々、旅館から徒歩5分の「地獄沼」へ。沼の奥付近からは盛んに蒸気が立ち昇っています。正体は温泉水が溜まった火口湖です。その先にこれから登る八甲田山の雄姿が見えます。行きの新幹線内で車内誌「トランヴェール」2022年10月号に掲載された「地獄沼」の紹介記事を目にしなかったら、こんな絶景スポットを危うく見逃すところでした。夜明け前に撮影した写真(上)は納得の出来栄えです。3日目の朝食は6:45から。配膳式の夕食よりバイキング形式の朝食の方が好感度が上でした。もう少し時間にゆとりがあれば、たっぷり腹拵えしたいところでしたが、そそくさと荷物を纏めて7:40に旅館を後にしました。
空にはどんよりとした雲が垂れ込め、出発後1時間足らず、<地獄湯の沢>に差し掛かった頃には霙になりました。岩木山の百沢コース同様、後続は誰もいません。ソロ登山といっても、天候が崩れそうなときには周囲にそれなりに登山者がいると心強いものです。後で知ったことですが、「酸ヶ湯温泉旅館」宿泊組の多くは紅葉見物がお目当てで、八甲田山ロープウェーで山頂公園駅へアプローチするようです。八甲田山最高峰・大岳(1584.5m)に近づくにつれ、横殴りの雪が視界を遮ります。おぼろげな視界の先にようやく下山を急ぐ登山者を確認し、内心少しホッとしました。ロープウエーの利用者でしょうか。次回はお天気のいい日に訪れ、八甲田山ロープウェーを使って「田茂萢岳(たもやつだけ)」、「赤倉岳」、「井戸岳」へと周回したいと思います。
大岳避難小屋から上毛無岱展望所あたりまで本来なら気持ちのいい木道歩きなのでしょうが、雪が降りしきるので、ひたすら下山を急ぎました。山頂を諦めて引き返すグループも何組か見かけました。途中、上越市からやって来たというW夫妻からスマホ撮影を依頼されたことがきっかけで会話が弾み、途中休息が過ぎたのか、「酸ヶ湯温泉旅館」に戻ったのは12時少し前でした。前泊者は無料で温泉が利用できるので受付でタオル一式を受け取り「ヒバ千人風呂」に浸かりました。思わぬ紅葉と雪景色との出会いに感謝して八甲田山に別れを告げました。