由布岳のお鉢めぐりはスリル満点~<西峰>から<東峰>へ時計回りのお鉢めぐり~

梅雨入りを控えた5月下旬から6月初旬にかけて、九州各地の高山に自生するミヤマキリシマが見頃を迎えます。先週末、羽田空港から朝イチの便で大分空港入りし、初日は由布岳、2日目はくじゅう連山まで遠征しました。山一面がピンクに染まるこの時期、くじゅう連山をはじめ九州を代表する山々を大勢の登山客が訪れます。

初日は抜けるような青空が広がり絶好の登山日和。山の神様に思わず手を合わせてしまいました。正面登山口は駐車場やトイレが整備され、眼前にめざす豊後富士こと由布岳の頂きがあります。その存在感たるや、名実ともに郷土富士にふさわしいものでした。<合野越(ごうやごし)>でひと息ついたら、山頂へのアプローチポイント<マタエ>まで約1時間です。途中で右手から視界が拓け、眼下に<飯盛ヶ城(いもりがじょう)>や湯布院温泉街が一望できます。鮮やかな新緑を目に焼きつけながら、緩やかなスロープを進めば<マタエ>に到着です。

そこから右手へ進めば<東峰>、左手へ進めば<西峰>です。今回の由布岳登山のちょうど1週間前、登山客7人を引率していたツアーガイドの男性(60歳)が由布岳山頂付近から約10メートル滑落し死亡したというニュースが耳に入りました。<マタエ>までは危険な箇所はなく、由布岳の難所は<マタエ>を起点に西峰から東峰へ時計回りで1周するお鉢めぐりです。直前の滑落事故ニュースで俄かに緊張感が増幅、出発前の地図読みだけで済ませず、最近の由布岳登山者のYouTubeも見たりして、お鉢めぐりの危険箇所を頭に叩き込んで本番に臨みました。

<マタエ>から<西峰>までに鎖場が3ヵ所あります。先のガイドさんは3番目の鎖場で滑落したようです。そこは「障子戸」と呼ばれる急斜面を鎖を伝いながらトラバースする危険箇所で、宛らミニ「カニノヨコバイ」です。距離にして10メートル足らず、足元に注意しながら進めばあっという間でした。進行方向絶壁の端におじさんの顔が見えたのには驚きました。身体は岩陰に隠れていて顔だけで覗き込まれると実に不気味です。どうやら下りの順番待ちでこちらの様子を窺っているようです。ハイシーズンの「障子戸」は、上り・下りの登山者が交差する難所ですから渋滞は必至です。くだんのYouTuberさんにはずいぶん挑発された気もしますが、基本どおり三点確保を心掛けしっかり鎖を掴んで慎重に進めば、「障子戸」は必ずクリアできます。

西峰で10分休憩し、左手前方にミヤマキリシマの群落を眺めながら進めば、いよいよお鉢めぐりの難所「ゴジラの背中」に差し掛かります。岩塊が連なるナイフリッジは全体を見通せないので、ひとつずつクリアしていくしかありません。東峰手前に急傾斜の岩場があります。<西峰>から<東峰>までの噴火口跡は「ウバガウジ」(『分県登山ガイド 大分県の山』より)と呼ばれ、所要時間は約1時間。コースタイムより10分早く東峰にたどり着けました。もう少し下ったところに平らな場所はありますが、あえて、<東峰>の岩場に腰掛けて、景色をおかずにおにぎりを頬張りました。東西二峰いずれも山頂展望抜群な上に、3ヶ所の鎖場や岩積みのアップダウンが頗るスリリングですから、存分に登山の醍醐味を堪能できました。

下りは<合野越>から進行方向右手へ進み<飯盛ヶ城(いもりがじょう)>(1067m)へ向かいました。背丈の低い笹で覆われた<飯盛ヶ城>の山頂にはかつてお城があったのでその名があります。北側を見上げれば、登ったばかりの双耳峰・由布岳の威風堂々たる姿があります。心地いい風が吹くので、<飯盛ヶ城>山頂で半時ばかり周囲の景色を眺めながら過ごしました。ここで珈琲が飲めれば最高でしたが、肝心のOD缶(航空機に持ち込めません)がないのでお預けです。下山してみれば、日焼け止めを塗るのを忘れた両腕の日焼けがきつく、そのまま露天風呂に入ったら皮膚が悲鳴を上げました。炎症を起こしている肌をアイシングすべきでした。遮るもののないお鉢めぐりで強い太陽光線を浴びてしまった恰好です。

由布岳深田久弥百名山に入れなかったことを後悔した山のひとつです。由布岳は自分のなかでは決して幻の百名山ではなく、名実共に立派な百名山に仲間入りです。