恐るべき9歳・八代目新之助の『毛抜』

2ヶ月目を迎えた十三代目團十郎白猿襲名披露。今月は八代目新之助が史上最年少の9歳で歌舞伎18番『毛抜』に挑んでいます。新之助丈が勤める粂寺弾正は、文屋豊秀方からお家騒動の禍中にある小野家に遣わされた使者にして、小野家を乗っ取ろうと企む家老八剣玄蕃の悪だくみを見抜き成敗する役どころ。荒事の豪快さに加え、好色や愛嬌も表現しなければならない大役です。

殆ど出ずっぱりで長台詞をこなし、5つの見得を切って和実味も表現しなければなりません。幕が開くまで、内心、猛稽古を積んだとしても9歳の新之助丈にはさすがに荷が重たい役どころではないかと思っていました。

いざ幕が上がると、「亀甲牡丹」の着付けに「寿の字海老」の裃姿で現れた新之助は宛ら小さな巨人でした。威風堂々と粂寺弾正が登場すると家老らが平伏しますが、大人に混じって演じているのに一片の違和感も感じられません。場面転じて、眉目秀麗な秀太郎や腰元に色目を使ってあしらわれる粂寺弾正がまた可笑しいこと。舞台狭しと肢体を大きく投げ出しておどける新之助に客席からやんやの喝采が送られます。言外の意味を汲みとって役作りに活かすのはこれからでいいのです。

幕外の引っ込み、ひとり花道でお勤めの挨拶をする姿はまさに歌舞伎の申し子。恐るべき9歳の前には洋々たる未来が拓けていくに違いありません。