九州遠征登山(中篇)|祖母山

九州には日本百名山が6座あります。祖母山という風変わりな名前は、神武天皇の祖母・豊玉姫命が祀られていることに由来します。祖母傾(そぼかたむき)国定公園の最高峰にして霊峰です。大分県と宮崎県に跨っていますが、宮崎県の最高峰(1756m)とされています。

当初、北谷登山口から国観峠(くにみとうげ)を経由する最もポピュラーな最短コース・千間平コース(帰路:風穴コース)を考えていました。直前になって北谷登山口に通じる道路が改良工事のため全面通行止めになっていることに気づき、急遽、神原(こうばる)登山口を起点とするコースに変更しました。前泊地の変更まで気が回らず、ホテル高千穂から登山口まで移動に1時間余りを費やしました。周到に準備したつもりでしたが、宿泊地の選定を誤り、渋滞に巻き込まれたり工事で迂回路を走らねばならなかったりと時間的ロスの大きかったことが今回の反省点です。ナビに登録した神の里交流センター緒環のかなり手前で右折し、細い林道を1.5kmを進むはずでした。右折ポイントをうっかり見逃し直進してしまった怪我の功名で、「深田久弥登山の地」と刻まれた石碑を拝むことができました。深田久弥の『日本百名山』には、3月中旬、山麓の神原の宿で一泊し祖母山に登頂したとあります。図らずも今回は深田久弥がたどったコースをなぞることになりました。

登山口に通じる林道は大変狭いので、レンタカーならコンパクトカーを選びましょう。大型車だと路肩が危険ですしカーブで切り返しを強いられます。9時過ぎに登山口(神原1合目)にたどり着いたときには、約20台収容の駐車場は満車でした。なんとか空いたスペースにクルマをねじ込みました(正確には1台分空きがあったのですがお隣さんの駐め方が悪く諦めました)。奥深い山間に水洗トイレ完備の立派な小屋がありました。こうして駐車場さえ確保できれば、祖母山登頂のミッションは半ば達成したようなものです。

渓流の音に耳を澄ましながら五合目小屋まで軽快に歩を進めます。その先から階段が続きやがて急登、望外のピーカンで気を良くしたせいか、テンポを落とさず約2時間で千間平コースと合流する広場のような国観峠に到着。赤い前掛けのお地蔵さんが出迎えてくれます。そこから山頂まで1時間足らずです。

お天気は文句なしのピーカン。遮るもののない大展望に魅了され、山頂滞在は1時間を超えました。山頂の様子を深田久弥は次のように描写しています。

<空には少しの雲もなく 、日はあたたかに、私は見える限りの山を数えながら、幸福な一時間を過した。西には阿蘇、その外輪山の裾野が目路の限り広々と伸びて、九重山に続いている。全く大きな原である。>

九重山の東には昨年登った豊後富士こと由布岳鶴見岳が連なっています。登山口に戻ったのは15時30分過ぎ。山頂でも言葉を交わした、京都からミニバンいらしたご夫婦が、登山靴を洗ったりしながら慌ただしく出発の準備をされていました。次の目的地は阿蘇山だそうです。天草からやって来たという男性は車中泊で翌日登山のようです。和やかなムードに包まれた駐車場を後に次なる目的地は宿泊先のある熊本市内です。途中、大分県・萩町から眺めた祖母山の山容は穏やかで優しい印象でした。