「メイド・イン・ジャパン」神話の終焉

日経朝刊コラム「大機小機」(2024/2/3)が、相次ぐトヨタグループ企業による不正行為を厳しく指弾しています。日野自動車ダイハツ豊田自動織機の3社は、いずれも自動車の根幹であるエンジンの認証試験において不正に手を染めています。自動車は走る兇器ですから、特に安全面への影響が憂慮されます。自動車ユーザーの心胆寒からしむる極めて悪質な偽装の連鎖と言う外ありません。技術の高度化が原因の一端とされていますが、メーカーを信頼する以外に防御手段をユーザーは持ち得ないだけに、厳しい処分と万全な再発防止策が望まれます。

コラムタイトルの<日本の企業経営が危ない>は、文藝春秋1992年2月号に掲載された盛田ソニー会長の論文から引用されたものです。バブル経済が弾けたとはいえ、当時の日本の製造業はまだ輝いていました。製品の品質管理(QC=Quality Control)や製品開発力において、日本の製造業は世界を牽引する立場にあったからです。にもかかわらず、盛田会長は日本型経営が踊り場に差し掛かっていることに気づいて、警鐘を鳴らしたに違いありません。

80年代前半、都市銀行の支店に配属されて社会人のスタートを切った頃、QCサークル活動(小集団改善活動)が活発に行われていました。生産性を少しでも向上させようと、日々、第一線の営業現場で接客や伝票処理など様々な実務の見直しが行われ、定期的に本部への改善提案が推奨されました。全行的に業務品質の改善が推進されていたのです。元々製造業の現場で行われていたQCサークル活動が金融サービスにも伝播してきたものだと考えられます。コラムが言及する日本科学技術連盟主催のデミング賞(1951年~)は、良き時代の日本の経営風土を象徴するものです。過去の受賞企業にはアイシンをはじめトヨタ系列が目白押しです。

コラムは、W・エドワーズ・デミングの自著「危機からの脱出」から次のような下りを引用しています。

生産現場の人々にとっての品質とは、自分自身を満足させる仕事ぶりや製品の出来栄えであり、それがワークマンシップの誇りを持たせる」

いつからものづくりの現場でこうした誇りや矜持が失われていったのでしょうか。「メイド・イン・ジャパン」がブランドだった時代は、「失われた30年」と共に終焉を迎えたのです。消費行動において、安全・安心を買うハードルは日増しに高くなるばかりです。