オリンパスの生物顕微鏡MIC型を懐かしむ~オリンパスが科学事業売却へ~

Bloombergニュースのヘッドラインオリンパス 科学事業を4277億円でベインキャピタルに売却ー医療分野に集中>(8月29日)を見て、小学生の頃、両親にねだって買ってもらったオリンパス生物顕微鏡MIC型のことを思い出しました。立派な木箱に収まった懐かしい生物顕微鏡は今も自宅で大切に保管しています。デザイン性に優れ、つまみを回転させるだけで3種類の対物レンズ(75・150・300倍)の倍率を変更できるので重宝し、せっせとプレパラート作りに励んだものです。オリンパス生物顕微鏡のほかに工業用顕微鏡も手掛けていて、教育機関や研究機関において抜群の知名度と信頼を獲得しているに違いありません。

かつてのオリンパスと言えば、「OM-D」や「PEN」のブランドで知られるカメラ事業(1936年~)を思い起こしますが、祖業に当たるのは顕微鏡製造を含む科学事業です。長年、赤字を垂れ流してきたカメラ映像事業を投資ファンドに売却したのは2年前のこと。今回、オリンパスは1919年の創業以来の伝統ある事業を手放す決断に至ったのです。現在の主力事業・医療分野に比して科学事業の営業利益率が見劣りするからというのが投資ファンドへの売却理由だそうです。「選択と集中」と聞かされれば一応納得しますが、名門オリンパスを支えてきた旧主力事業が次々と切り売りされPEファンドの手に渡っていくのは何とも淋しいものです。

外国人保有比率の高いオリンパス(50%超え)は、外国人株主の期待に応えるべく、利益の大半を占める内視鏡事業や治療器事業など医療分野に経営資源を集中させるということなのでしょう。「この木なんの木」のCMで有名な日立グループでさえ、聖域を設けず、御三家日立化成をはじめ非中核事業を容赦なく売却しています。

これまで、日本の名門製造業は赤字部門を温存しつつ各部門でバランスをとりながら持続的な成長を遂げてきました。素粒子ニュートリノ観測に成功しノーベル物理学賞を受賞した故・小柴昌俊さんを実験装置製造で支えたのは浜松ホトニクスです。たんぱく質質量分析ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは現在も島津研究所の研究者です。

目先の収益に繋がらない研究開発事業を蔑ろにすれば、将来の収益源となるかも知れないシーズは根絶やしにしかねません。今思えば、やせ我慢できるのも日本メーカーの余裕の表れだったわけです。科学技術立国を標榜する日本の未来はかぎりなく昏いのではないでしょうか。