大盛況の特別展「和食」@東京国立科学博物館

上野の東京国立科学博物館で一風変わった特別展「和食」が開催中です(〜2/25)。考えてみれば、和食のひとつ・発酵食品は微生物が関与する有益的な化学変化ですから、科学博物館とのミスマッチはありません。節分だった土曜日の午後、比較的空いているだろうと踏んで会場に赴きました。ところが、当日券を求める人の行列が出来ていて、会場入口は立錐の余地のないくらい混雑していました。コロナ前の2019年、68万人を動員した「恐竜博2019」に比べればどう見ても地味なテーマなのに、意外や意外でした。食文化への関心が高まっているせいでしょうか。「和食」が2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されてから10年。その節目に「和食」文化を再考させたいというのが、主催者側の狙いなのでしょう。

展示は、「和食」に欠かせない日欧の水質の違いからスタートします。超硬水として知られる仏コントレックスにはミネラル(ℓ当たり)が1468mg、仏エビアンでも304mg、これに対して日本の天然水は軟水ですから、ミネラルの含有量は100mg未満。ご飯を炊く、出汁を取る、野菜を煮る、いずれもクセのないまろやかな軟水が適しているのです。会場には日本各地の天然水のPBが陳列されています。南阿蘇を訪れた際、通りかかった白川水源(84mg)や屋久島縄文水(10mg)などの天然水を味わってみたいと思わせました。

鑑賞中、動線設計に不満が募りました。展示パネルは視線の上にあるのでいいのですが、低めの展示ケースが多いせいで来館者の歩みは遅々として進みません。入館料は2000円也、お金を払って混雑を見にきたようでは報われません。小さいお子さん連れの家族は閉口したことでしょう。明らかに詰め込み過ぎです。後半の展示で混雑は多少解消されましたが、コロナ禍の時間指定制に戻して、じっくり鑑賞できる態勢を整えて欲しいものです。キノコ(レプリカ)や地ダイコンの展示は、おしくらまんじゅう状態で素通りを余儀なくされました。

日本で食されている野菜の殆どが外国産であることを示す展示パネルに蒙を啓かれました。ブロッコリーやモロヘイヤが大正昭和以降、欧州やアフリカからもたらされたのは兎も角、普段から馴染みのある野菜が外国産だとは驚きました。以下、列挙しておきます。

ダイコン(ヨーロッパ)、ナス(東アジア)、キュウリ(南アジア)、ジャガイモ(南米)、ニンジン(中東)


東京国立科学博物館のマグロ各種展示模型


豊洲市場クロマグロ(日本最大)

特別展「和食」に足を運んだ最大の眼目は、世界で8種とされるマグロの実物大の模型を見ることでした。日本近海では、クロマグロメバチ、キハダ、ビンナガ、コシナガの5種が多く漁獲されるのだそうです。漁獲量ではキハダが44%、次いでビンナガ(25%)、メバチ(22%)と続きます。なかでも1986年に種子島で獲れた過去最大のクロマグロの模型は圧巻でした。会場に足を運ぶ直前に豊洲市場で撮影した最大級のクロマグロ模型と比べてみて下さい。体長2.88mにして胴回りは2.36m、体重は495kg!です。最大級のクロマグロの直下には、目がぱっちりのメバチがいます。寿司ネタの人気者マグロに関しては、部位の名称や漁獲法など、日本人ならもっと理解を深めておきたいところです。

「和食」といえば出汁。フレンチならソースに凝るところ、日本人は出汁にこだわります。出汁作りに欠かせない素材・高級昆布と鰹節は、出来上がるまでに相当な手間暇がかかっていますが、その合わせ出汁なら短時間で取ることができます。昆布だしの主成分・グルタミン酸と鰹節のイノシン酸の組み合わせで5番目の基本味・「うま味」を引き出した先人の知恵には感心するしかありません。

展示の最後で全国各地のお雑煮が紹介されています。角餅や丸餅だけでも焼き餅あり、煮餅あり。京都の白味噌仕立てやあん餅といった変わり種もあってお雑煮文化は宛ら百花繚乱です。我が家は至ってシンプルな雑煮です。焼いた角餅にほうれん草と紅白の蒲鉾を添えただけのお雑煮を食べるたびに、日本人に生まれて良かったと思います。とりわけ、昆布と鰹節の合わせ出汁のうまさには言葉にならない感動を覚えます。

江戸時代の二八蕎麦の屋台展示は子供たちに人気のようでした。特別展「和食」を通じて奥深い食文化への理解が進みました。少し残念だったのは、醤油や味噌などの発酵食品を紹介しながら、塩漬けや糠漬けに代表される漬物文化に触れていなかったことです。白菜漬けやたくあん、京都の三大漬物(千枚漬け・すぐき・しば漬け)などお米ご飯と切り離せない漬物を「あなたの忘れられない和食」に挙げておきました。