2024年寿初春大歌舞伎|様式美の極み『寿曽我対面』

お正月の歌舞伎座は格別です。紅白の繭玉飾りや鏡餅歌舞伎座1階ロビー大広間は華やかに飾り立てられ、新年初日の1月5日には、同大広間で年頭恒例の「木遣り始め」が催されました。江戸町火消「す組」の芸を継承した鳶たちが威勢よく纏い振りを披露し、木遣り唄で盛り上げます。新年最初のこの伝統行事、一度、見てみたいものです。

鎌倉時代、父を殺された兄弟(曽我十郎、五郎)が亡父の仇討ちを果たすという実話を元に作られたお芝居が『寿曽我対面』です。仇は、鎌倉殿こと源頼朝に重用された工藤祐経梅玉)です。

顔見世や初春歌舞伎で頻繁に『寿曽我対面』が演じられるのは、仇討ちが実現するめでたいお話だからです。仇の工藤祐経を前に、逸る気持ちを抑え切れない曽我五郎(芝翫)を諌めるのが兄・十郎(扇雀)の役どころ。巻狩り総奉行就任の祝いの宴にふたりを招き入れ、祐経に対面させるのが小林朝比奈です。小林朝比奈は舞台狭しと居並ぶ裃姿の工藤祐経重臣ではなく、宴に招かれた有力鎌倉大名です。演じるのは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で北条時政を務めた坂東彌十郎です。宴の主人・工藤祐経に忖度しない道化方(どうけがた)の演技が光りました。主人公の曽我兄弟に理解を示しながら中立的な立場を貫き、切歯扼腕する五郎を諌めつつ、その場を収めていきます。

和事の十郎と荒事の五郎は終始好対照。憎き仇ではあるものの工藤祐経は、遊女2人に命じて曽我兄弟に盃を与え、丁重にもてなします。武家のしきたり重んじる工藤祐経は、悠然と構え些かも動じることはありません。五郎は悔しさのあまり三方を押し潰してしまいます。「大磯の虎」(虎御前とも呼ばれます)と「化粧坂の少将」は、それぞれ十郎・五郎の恋人という役どころですから、動きこそ控えめですが、お酌する遊女の表情や所作に注目です。

家宝の刀「友切丸」を紛失している曽我家には、公式の仇討ちは認められません。工藤にその点を突かれ、兄十郎は逸る五郎を再三制止します。そこへ現れたのが曽我家の忠臣・鬼王新左衛門(東蔵)、携えていたのは失った「友切り丸」。工藤祐経はこれを検め、曽我兄弟に富士の巻狩りの通行手形(狩場の切手)を与えます。巻狩りが済めば、討たれてやるという潔い計らいです。

工藤が鶴、曽我兄弟と朝比奈が富士山、鬼王が亀と誠に目出度い見得で幕切れです。

夜の部は最初に「鶴亀」、「寿曽我対面」を挟んで「息子」と「京鹿子娘道成寺」。

高麗屋三代共演の「息子」(小山内薫作)は短い演目ながら、心に響く内容でした。舞台中央に火の番小屋を置いただけのシンプルな設え。あたりは一面雪化粧、屋根に降り積もった雪が印象的です。火の番小屋で寂しげに火にあたりながら佇む老爺(白鸚)とならず者になり下がった放蕩息子・金次郎(幸四郎)の予期せぬ再会を描きます。古典歌舞伎とはひと味違う親子の心理描写に重きを置いた佳作。五代目歌舞伎座は11年目を迎えました。