七月大歌舞伎(2023)|中車奮闘の忠臣蔵後日譚『菊宴月白浪』

5月18日に猿之助丈が病院に搬送されて以来、猿之助ロスに苛まれています。七月大歌舞伎・昼の部『菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)』の主役・斧定九郎は本来なら猿之助が演じるはずでした。座長不在で苦境に立たされた澤瀉屋さんを応援するつもりで先行発売日初日に花道に近い1等席を手配し、当日を迎えました。

團十郎新之助・ぼたんが登場する夜の部(『め組の喧嘩』など)へ観客が流れるのではないかと心配しましたが、昼の部は盛況でした。『菊宴月白浪』は三代猿之助四十八撰の内と銘打たれた澤瀉屋お家芸のひとつ。上演機会のなかった大南北(四代目鶴屋南北)の忠臣蔵後日譚を1984年に三代目・猿之助(現・猿翁)が復活させた演目です。歌舞伎座では32年ぶり3度目の上演です。筋書きの上演記録を見ると、前回・前々回は四代目・段四郎が仏権兵衛を演じ、斧定九郎役の現・猿翁と兄弟競演だったことが分かります。冒頭の事件さえなければ、四代目・猿之助と従兄の中車の競演が実現したはずです。本当に残念でなりません。


松竹(C)

6列目9番花道横に陣取ったので、代役に抜擢された中車の一所懸命は手に取るように分かりました。クライマックスで下手から大凧に乗った中車(盗人・暁星五郎役)は客席後方へ退き、上手客席後方から再び舞台へ戻る「両宙乗り」を披露し、手を振りながら万雷の拍手に応えました。澤瀉屋の重鎮・笑也や猿弥が脇を固め、色悪・与五郎を演じた芝翫の三男・歌之助(22)の熱演が光りました。筋書きの人物相関図を見ても、お家再興をめざして対立する塩谷判官と高野師直両陣営の敵味方の色分けが判然とせず、あらすじは複雑だと申し上げておきます。


松竹(C)

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歌舞伎三大狂言のひとつ『仮名手本忠臣蔵』は全十一段の大作です。江戸幕府を震撼せしめた赤穂浪士の討ち入りは、後年戯作者に多大なインスピレーションを与えています。討ち入り直前の大高源吾と俳人宝井其角の両国橋の出会いで始まる『松浦の太鼓』も忠臣蔵外伝のひとつで、上演回数も多く好みの演目です。大南北の代表作『東海道四谷怪談』の主人公・民谷伊右衛門も斧定九郎の父親・九郎兵衛同様、不義士です。大南北が活躍したのは町人文化が全盛期を迎えたとされる化政年間です。討ち入りを果たした英雄と対比させる形で本懐を遂げられなかった不義士と市井の人々にスポットを当てたところに、大南北らしい創意工夫が感じられます。

「両宙乗り」にLEDの花火や大屋根の立ち廻りと、けれんたっぷりの鶴屋南北ワールドを堪能してきました。忠臣蔵推しはスピンオフも外しません。