初曽我に散切物

2023年は五代目歌舞伎座の開場10周年にあたります。時が経つにつれて、歌舞伎座の背後に聳え立つ29階建ての高層オフィスビル歌舞伎座タワー」が周囲と馴染んできたように感じます。銀座4丁目交差点から昭和通りと晴海通りがクロスする三原橋交差点へ向かう道すがらの景観もこの10年でずいぶん変貌しました。その間、未曾有のコロナ禍を乗り越えて、世代交代を重ねながら、歌舞伎界は着実に進化を遂げています。

壽初春大歌舞伎は第二部に足を運びました。最初の演目は俳句の季語「初曽我」ゆかりの『壽恵方曽我』。高麗屋三代が揃い、万歳に扮した五郎と十郎を幸四郎猿之助が務めます。お正月気分を盛り上げてくれるのは配役だけではありません。主座・工藤祐経(白鸚)の背後に富士の全景を描き、左右に紅白梅、足元には兎が遊んでいます。鎌倉時代の「富士の巻狩り」かくあらんやと思わせます。

2つ目の演目は、河竹黙阿弥が英国の作家リットンの喜劇を散切物に翻案した『人間万事金世中』。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で北条時政を演じて、すっかりお茶の間の人気者になった坂東彌十郎が強欲勢左衛門を演じます。曽我物から一転、今も昔も変わらない欲得ずくめの人間の業が舞台狭しと繰り広げられます。コメディタッチの展開で、メリハリ不足のせいか、肝心な場面で観客の心に響かなかったのが惜しまれます。

相続が争族と揶揄されるようにお金をめぐる諍いは絶えません。「まさかの友は真の友」(A friend in need is a friend indeed.)、「落ち目になり窮地に立たされたときに本当の親切心を知る」と云います。錦之助演じる林之助が親戚筋の心根を確かめようと、土壇場で一芝居打って幕となります。