十三代目市川團十郎白猿襲名披露11月「昼の部」の寸評~圧巻の「祝幕」は村上隆作~

11月7日から十三代目市川團十郎白猿披露十一月吉例顔見世大歌舞伎が始まりました。大安吉日の19日(土)に「昼の部」を観劇したばかりですが、今週は「夜の部」を鑑賞します。歌舞伎界の祝祭・成田屋さんの襲名披露公演は演目を変えて十二月も行われます。37年ぶりの成田屋襲名披露公演を歌舞伎座で鑑賞できる倖せを心から噛みしめています。口さがないマスメディアはチケットの売行きが不振だと盛んに囃したてますが、11月は「昼の部」・「夜の部」とも完売、12月も口上のある「夜の部」は早々と完売しています。実際に舞台に足を運んだことのない記者が風聞で記事を書いているのでしょう。期待と重責を背負う十三代目の内なるプレッシャーに少しは想像力を膨らませて欲しいところです。そして、新・團十郎への根拠なきネガティブキャンペーンもほどほどにしてもらいたいものです。

「昼の部」の『祝成田櫓賑』は、舞台広しと鳶頭や男伊達に芸者が加わり成田屋さんの襲名を言祝ぎます。容姿端麗な錦之助さん演じる鳶頭信吉と梅枝の芸者姿が際立っていました。続く歌舞伎十八番のうち『外郎売』は八代目新之助の初舞台。一段高いところに鎮座する工藤祐経役の菊五郎さんは後見の佇まい。新之助を見つめるその眼差しは恰も孫を見るかのようでした。花道へ新之助演じる外郎売こと曽我五郎を招き入れようと舞台上の少将や游君が声掛けする様子は、愛する我が子を迎え入れるようで実に微笑ましいものでした。大舞台に動じることなく、堂々と『外郎売』の長台詞を澱みなく畳みかける新之助丈は宛ら小さな巨人、大器の片鱗を十二分に披露してくれました。

勧進帳』は、幸四郎が富樫左衛門を、猿之助義経を演じました。筋金入りのファンには物足らないと言われる新・團十郎の口跡は、海老蔵の頃よりずいぶん良くなったなと感じます。特別公演の仁左衛門富樫に比べると、幸四郎の朗々たるセリフ廻しの歯切れが良すぎて、「山伏問答」における弁慶を追い詰めるような関守の気迫がやや後退気味だったのが気になりました。弁慶vs富樫の火花を散らすような対峙をもっと前面に押し出しても良かったのではないかと思います。

2018年の高麗屋さんの三代同時襲名披露の「祝幕」のデザインを手掛けたのは草間彌生さんでした。十三代目市川團十郎白猿襲名披露の「祝幕」は、草間彌生さん同様、世界的に知られる現代アーティスト・村上隆さんのデザインです。「祝幕」には、市川宗家が大切にしてきた演目「歌舞伎十八番」のエッセンスがすべて描き込まれています。草間彌生さんの「祝幕」もカラフルで素敵でしたが、高さ7.1m・幅31.8mに及ぶ村上さんの「祝幕」一杯に拡がる構図は、歌舞伎の世界観そのものです。以前、森美術館で見た全長100mに及ぶ村上隆さんの大作《五百羅漢図》を彷彿させます。正面に『勧進帳』の弁慶と『外郎売』の曽我五郎を配し、背後に『暫』の鎌倉権五郎景政の長素襖が大きく開いています。色彩豊かなこの「祝幕」は超弩級の迫力で、稀代の現代アーティストからスーパーヒーロー新・團十郎への最高の贈り物ではないでしょうか。