親子が演じる『連獅子』に勝るものなし〜十代目幸四郎 × 新染五郎〜

2019年11月吉例顔見世大歌舞伎夜の部で、十代目幸四郎 × 新染五郎の『連獅子』(河竹黙阿弥作)が上演されています。20日歌舞伎座では初となる夢の親子競演を観て参りました。去年、京都南座の襲名披露興行でお披露目されたのだそうですが、歌舞伎座で早くも再演されるとは慶賀に堪えません。

幕が開くと、能舞台を模した松羽目が目に飛び込んできます。『勧進帳』然り、松羽目物を前にすると思わず居ずまいを正したくなります。400以上ある歌舞伎演目にあって、松羽目物の格式の高さは随一で人気も一際抜きん出ているように感じます。

幕開け、白と赤の手獅子を手にした狂言師の右近(父獅子)と左近(仔獅子)が厳かに連れ舞って、文殊菩薩の霊山清涼山にかかるという石橋(しゃっきょう)を表現します。やがて、千尋の谷に突き落とされ這い上がってきた仔獅子だけを親獅子が育てるという故事が、連舞で演じられます。花道から駆け上がる仔獅子を父獅子が迎える場面は前半のクライマックスです。

親子獅子が引っ込むと、ふたりの旅僧が舞台に登場し、間狂言「宗論」となります。法華の僧と浄土の僧をそれぞれ萬太郎と亀鶴が演じます。旅の連れ合いが出来たと最初は喜ぶふたりでしたが、やがて、太鼓と鉦を打ち鳴らしながら、宗論優劣を競う合うことになります。軽妙洒脱で滑稽味のある掛合いが見どころです。

一陣の風が吹き、いよいよ終幕へ。勇壮な姿の親子獅子の精が登場し、実の親子である十代目幸四郎と新染五郎がピタリと息の合った豪快な毛振りを披露します。これでもかと繰り返されるダイナミックな毛振り*に、会場は割れんばかりの拍手に包まれ増幅していきます。久しぶりに鳥肌が立つような感動を覚えました。

幕間に「私『連獅子』が大好きなの!」という話し声があちこちから聞こえてきました。まして、襲名披露してまもない親子の競演とあっては、大好きと叫びたくもなるでしょう。『連獅子』は、世襲制の下、日々の稽古精進と弛まぬ創造的研鑽によって400年以上にわたり芸を承継してきた歌舞伎界を象徴 する演目でもあるわけですから。襲名以降、成長著しい新染五郎の役者ぶりに一番目を細めているのは幸四郎さんに違いありません。

*気振り:左右に振る「髪洗い」、回転させる「巴」、舞台に毛先を叩きつける「菖蒲叩き」などの態様があります。