壽初春大歌舞伎2021は第三部を観劇~『車引』&『らくだ』~

年が改まっても、コロナ禍は収まらないどころか猛威を増すばかり。1/7の緊急事態宣言再発出でヒヤリとさせられましたが、第三部は急遽25分繰り上げて18:20に開演、胸をなで下ろしました。第三部の演目は次のとおりです。

●菅原伝授手習鑑『車引』

●眠駱駝物語『らくだ』

今回の『車引』最大の見どころは、高麗屋三代が三つ子の兄弟を演じるという、歌舞伎ならではの豪華な配役でした。老いてなお矍鑠たる白鷗丈の<松王丸>は円熟の極み、それでいて若々しいかぎり。息子と孫を前に歌舞伎役者かくあるべしと渾身の演技でお手本を披露されているように見えました。2018年の直系血縁による三代同時襲名から3年、それぞれの名跡にふさわしい貫禄がついてきたように感じました。三つ子らしい「童子格子」のお揃い衣裳に三者三様の隈取、<梅王丸>演じる幸四郎さんと<桜丸>演じる染五郎さんの息の合った見得、兄弟三人の大立ち回り、藤原時平彌十郎)の仁王立ちへと、息もつかせぬ展開。あっという間の30分でした。染五郎さんの手先まで行き届いた所作は日々精進を重ねている証なのでしょう。華やいだ新春らしい舞台だっただけに、外出自粛の影響からか空席が目立ったのがつくづく悔やまれます。

ふたつめは落語の演目を歌舞伎化した『らくだ』。河豚の毒にあたって頓死してしまった<らくだこと馬太郎>の兄貴分<半次>を芝翫が、<紙屑買いの久六>を愛之助が演じます。端正な顔立ちの愛之助が小汚い流れ者の紙屑屋を演じる妙、配役を知らなければ愛之助と気がつかなかったかも。気風のいい江戸っ子<半次>とはいでたちも好対照ながら、上方言葉で応戦、ふたりの丁々発止の遣り取りが見どころです。幕が開いたときから舞台中央に横たわっている死体の<馬太郎>を松江が演じます。担がれているかに見える<馬太郎>ですが、実は動いています。

最後はやや尻切れとんぼの印象でした。念のため、落語のあらすじを確認すると、歌舞伎版はかなり端折っていることが分かりました。歌舞伎演目も演出次第でもう少し面白くなるような気がします。これで落語の人情噺を原作にした三大名作(『芝浜革財布』・『人情噺文七元結』・『らくだ』)、コンプリートです。