「ロストフの14秒」の教訓

今夜、2022年カタール・サッカーW杯の初戦・日本vsドイツ戦が行われます。サッカーファンも俄かファンもテレビの前に釘付けでしょう。Jリーグには無関心な「にわか」の自分も今か今かとテレビ観戦を待ちわびているところです。日本が戦う1次リーグE組には、ドイツ(FIFAランキング11位)とスペイン(同7位)という格上2チームが君臨していますから、歴史を塗り替えようと森保ジャパンが挑むベスト8進出は言うは易し行うは難しです。心強いのは日本代表26人うち、主将の吉田麻也(シャルケ)はじめドイツ1部リーグでプレーする選手が7人もいることです。敵を知れば百戦危うからずですからね。

初戦を前に、4年前のロシア大会決勝トーナメント1回戦・強豪ベルギー戦の後半アディショナルタイムの伝説映像をNHKスペシャル(2018/12/8放映)の再放送で視聴しました。忘れもしない痛恨の14秒は試合会場のロストフ・アリーナに因んで「ロストフの14秒」と呼ばれています。「ドーハの悲劇」(1993年10月28日)に匹敵する本大会の残酷な現実です。

後半開始早々、原口元気乾貴士の華麗なゴールで強豪ベルギー相手に2点先制。しかし現実は甘くありません。ベルギーのフェルトンゲンフェライニのゴールで無情にも2-2に追いつかれ、試合は目安4分の後半アディショナルタイムに突入します。

残酷な逆転劇はここから始まります。本田圭佑の直接FKをGKクルトワがセーブし日本がCKを獲得。本田がCKでゴール前に放り込んだボールをクルトワが直接キャッチ。いち早く中央で前線へ走り出していた司令塔MFデブルイネへグラウンダーで素早くパスを通し、天晴れの超高速カウンターが起動します。

デブルイネがハーフラインを越えた時、相対したのは途中出場のボランチ山口蛍。デブルイネは時速30kmに達する得意のスプリントで抜け出し10m間隔の大きなタッチを2回してゴールに迫ります。進路を塞ごうと山口蛍が前進してくるのを見越したかのようにデブルイネは突如減速し、右サイドを駆け上がってきたDFムニエにパスを出します。長友がマークしたムニエはそこからグラウンダーのクロスを出して、ストライカーのルカクが敢えてこれをスルー。左サイドからゴール前に走り込んだMFシャドリが球を受けて、完全なフリーで悠々と決勝点を叩き込みます。キャプテン長谷部の脚がボールに少し触れていましたが、軌道を大きく変えるには至りませんでした。ルカクはチームの勝利のためにシャドリに手柄を譲ったのです。ロスタイム終了まじかで万事休す、GKクルトワがボールを投げてからわずか14秒の出来事でした。

グループステージでは奏功した本田圭佑のCKはベルギーに完全に見透かされていました。起点となったGKのクルトワイエローカードを取られてでも倒しおくべきだったと吉田麻也は振り返ります。長友はピンチがチャンスではなくチャンスがピンチだったと取材に応じています。

強豪ベルギー相手に2点を先取してチーム全体に心のスキが生まれたのです。グループステージのポーランド戦の時間稼ぎのパス回しのしっぺ返しのようにも思えます。ベルギーその後も快進撃を続けロシア大会を3位でフィニッシュ。本田のCKや山口蛍の守備などマイクロな敗因探しは無益です。慢心こそがロシア大会決勝トーナメント敗退の主因だったのだと思います。初出場メンバーがマジョリティの新生サムライブルーは果たして「ロストフの14秒」の教訓を活かせるのでしょうか。ドイツ初代宰相のビスマルクは、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言いました。初出場組が歴史に学んでくれることを期待します。