超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』がめざす歌舞伎の未来

2016年に誕生した「超歌舞伎Powered by NTT」がついに歌舞伎座デビューを果たしました。12月3日に開幕した『今昔饗宴(はなくらべ)千本桜』を早速観てきました。先ずは、特別ポスター(写真・下)をご覧下さい。ペンライトに染まった観客席があしらわれています。新橋演舞場はさておき、これまで本丸の歌舞伎座で新作歌舞伎やスーパー歌舞伎が上演されても、ペンライトで舞台を盛り上げるのはご法度でした。開演前に「前傾姿勢」を取らないで下さいと注意アナウンスが流れるくらいですから、視界を遮るペンライトなどもってのほかだからです。

幕が上がると、主演の中村獅童が登場しペンライトの使い方を指南します。「超歌舞伎」と銘打って、古典歌舞伎では到底考えられなかった舞台演出を指向しようとしているのです。もうひとりの主演はヴァーチャル・シンガーの初音ミク(美玖姫)。篝火をバックに美玖姫と中村獅童演じる佐藤忠信が共演する妖艶なシーンをはじめ、舞台演出には最新テクノロジーが導入されています。

若い世代の観客の姿が目立ちます。観客席と舞台が渾然一体となった「超歌舞伎」は、違和感なく受け止められました。舞台上で獅童はこれを「伝統と革新」と呼び、自分は「不易流行」だと理解しました。大団円を迎え、千年の時を経て「千本桜」が甦り、客席を桜吹雪が舞います。三大狂言のひとつ『義経千本桜』に登場するのは、千年長生きした雌雄の狐の皮で出来た鼓・「初音の鼓」。子狐が義経四天王のひとり忠信に化けて、静御前を救うのです。「超歌舞伎」をきっかけに、歌舞伎を知らない世代が古典歌舞伎の世界へ導かれ、『義経千本桜』を観る機会へ繋がればと願っています。


©松竹/超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』

獅童の次男・小川夏幹(3歳)君は初お目見え。お兄さん・小川陽喜(5歳)君と共に、舞台終盤に親子共演が実現しました。血縁で繋ぐ歌舞伎の世界を垣間見た若い世代にはどう映ったのでしょうか。

第一部の最初の演目は化け猫伝説を題材にした『旅噂岡崎猫』。巳之助が軽やかな身のこなしで化け猫を好演、アクロバティックな動きやケレン味たっぷりの演出があって、「超歌舞伎」との取り合わせは抜群でした。「十二月大歌舞伎」は話題作を並べた第一部が圧勝、松竹の狙いどおりになったようです。