東京都の感染者数がとうとう1万人の大台を超えた1月22日(土)、久しぶりにトーハクを訪れました。ローチケで日時指定券を手配してありましたが、感染者者急増のせいでしょうか、開館直後の人出は疎らでした。普段の週末であれば、大勢の乗降客が行き来するはずのJR上野駅公園改札口が静まりかえっていました。
めったにない静謐な環境のなか、特別展「体感!日本伝統芸能」をじっくり鑑賞できました。大掛かりな特別展「ポンペイ」が<平成館>で並行して開催中だったため、僥倖哉、本展の会場は<表慶館>でした。大規模特別展の会場に使われる<平成館>(1999年3月竣工・安井建築設計事務所)が商業ビルのような味気ない建物であるのに対し、<表慶館>はひと言で言うなら威風堂々。明治時代末期を代表するネオ・バロック様式建造物で国の重要文化財(重文)に指定されています。設計したのは片山東熊、師匠は明治期に来日したジョサイア・コンドルです。エントランスを抜けると、頭上はドーム天井、足元にはカラフルな大理石のモザイクタイルが敷きつめられています。圧巻は、自然光がたっぷりと降り注ぐ2階へと続く優美な階段とその先の踊り場(階段室)を階下から眺める構図です(写真下)。
会場全体が芸術作品ですから、<表慶館>というだけでテンションが上がります。元々は、東京オリンピック開催年2020年春に開催される予定でしたが、コロナ禍の影響で2年順延されたのだそうです。コロナ禍が終息して、外国人観光客が自由に来日できるようになるまで今しばらくかかりそうです。この素晴らしい空間で日本の伝統芸能の粋を鑑賞できる日が再び訪れることを願わずにはいられません。
本展の見どころは、歌舞伎・文楽・能楽に加え、18世紀の琉球王国時代に遡る組踊(くみおどり)や雅楽に触れて、横断的に日本の伝統芸能を俯瞰できる点です。ディスプレイの映像を見ながら展示資料を再確認すると一層理解が深まります。歌舞伎であれば、「金門五山桐(きんもんごさんのきり)(注:参照)」(南禅寺山門の場)の再現舞台、文楽であれば「義経千本桜(川連法眼館の段)」の再現舞台は、この機会かぎりの展示空間ではないでしょうか。実際に舞台に立って演じ手の視線で舞台装置を眺める体験は、新鮮そのものでした。
会期は3月13日まで。興味のある方はお見逃しなく。
(注)現在は「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」の名題で上演されています。