トーハクで聖林寺「十一面観音菩薩立像(国宝)」を拝む〜不便な事前予約システムには閉口する〜

7月中旬、今年初めてのトーハク訪問。拝観前に事前予約をしたわけですが、外部システム(イープラス)依存の事前予約システムの使い勝手の悪さにはほとほと閉口させられました。都美に比べると総じてトーハクの来館者対応はお粗末です。

今回の特別展の目玉は、東京初公開の「十一面観音菩薩立像」(国宝・奈良県桜井市聖林寺蔵)と「地蔵菩薩立像」(国宝・法隆寺蔵)です。聖林寺の「十一面観音菩薩立像」は、白洲正子さんの代表的な随筆集『十一面観音巡礼 愛蔵版』(2010年)(初版1975年)の表紙を飾った天平彫刻の傑作、ようやく拝観が叶いました。像高は209.1センチ、写真で見るより均整のとれた立像でお顔は思ったより小さく感じられました。眼差しは厳かな印象です。お寺に安置されていれば見ることのできない背後からのお姿も含め、360°ぐるり鑑賞できるのが本展のメリットです。

VIXENのアートスコープで何度も確かめましたが、十一面のうち三面が完全に欠損しています。欠損の経緯が知りたかったのですが、会場のキャプションに断りはありませんでした。明治元年神仏分離令と悪しき廃仏毀釈で大神(おおみわ)神社から聖林寺に移された際に失われてしまったのでしょうか。この移転にはフェノロサが尽力しています。

十一面観音は、文字通り十一の顔で周囲を見渡し、苦しむ衆生を遍く救う願い(衆生済度)が込められた仏像です。白洲正子は、前述の著書のなかで「世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然とみとれていた。」と書いています。

会場には「三ツ鳥居」が設えてあり、背後に大神神社のご神体「三輪山」が聳えています。自然崇拝(nature worship)と言えば、「那智大滝」は、熊野那智大社の別宮・飛瀧神社のご神体として古くから人々の畏敬を集めてきました。

十一面観音は、必ず山に近いところ、もしくは山岳信仰と関係のある寺に祀ってあると白洲正子は述べています。国宝十一面観音七体をめぐる旅、秘仏もありますから、博物館ではなく山麓の寺院で拝観したいものです。