<チャイニーズ・タイペイ>を快く思わない台湾のお国事情

東京五輪で台湾選手が大活躍していることにお気づきでしょうか。8/1現在、メダル獲得数は10個(金2・銀4・銅4)で2004年アテネ大会の5個(金2・銀2・銅1)を上回り、史上最多を更新中なのです。東京開催ですから日本人選手の活躍に目が行きがちですが、7月31日のバドミントン男子ダブルス決勝で、台湾ペアが中国人選手ペアを下して金メダルに輝いたことで、台湾全土が興奮の坩堝にあるとメディアは伝えています。

ところが、台湾の選手が金メダルに輝いても、台湾の国旗「青天白日満地紅旗」は掲揚されず、台湾の国歌も演奏されません。代わりに掲揚されるのは、白地に五輪のシンボルマークと中華民国の国章があしらわれたチャイニーズタイペイ・オリンピック委員会旗なのです。国歌の代わりに演奏されるのは「国旗歌」です。1984年のロサンゼルス五輪以来、繰り返されてきた何とも奇妙な光景です。

いうまでもなく台湾の正式名称は「中華民国」。国旗も国歌も存在します。<チャイニーズ・タイペイ>は、台湾にとって受け容れ難い究極の妥協の産物なのです。台湾にも残念ながら親中国勢力が存在します。国際社会で影響力を強めた中国は、70年代以降、IOCや中国寄り政府に圧力をかけて、台湾は国際大会で「中華民国」を名乗れなくなってしまったのです。

台湾で<チャイニーズ・タイペイ>が不評なのは歴然たる事実です。国民の大半が快く思っていないにもかかわらず、<チャイニーズ・タイペイ>を渋々受け容れているのは、他ならぬ選手たちの五輪参加の道が閉ざされる可能性が大だからです。現に、2018年に台湾で行われた住民投票でも、<チャイニーズ・タイペイ>からの名称変更は否決されています。

97年の香港返還以降、初めて香港代表がフェンシング・男子フレール個人で金メダルを獲得しました。表彰式で流れたのは「中国国歌」、これには香港住民は大ブーイングだったそうです。オリンピック憲章はどうあれ、2019年に発表された「願榮光歸香港(香港に栄光あれ)」に代表される地域賛歌を流して欲しいというのが香港市民の切なる願いなのでしょう。

台湾の現総統蔡英文(ツァイ・インウェン)女史は「二つの中国」の立場に立っています。1972年9月、日本は日中共同声明の合意に基づき中国と国交を樹立、結果、台湾とは断交することになってしまいました。巨大な中国市場と引き換えに戦前の領土だった中華民国を切り捨てた恰好です。その後、増々、覇権主義的行動を強める中国を見ると、戦前の大日本帝国さながら、どうしても好きにはなれません。