カジュアルリッチをめざす「波佐見焼」

波佐見焼 小さな町の奇跡>と題する朝日新聞の連載記事(編集委員:大鹿靖明)に目が止まりました。「波佐見焼(はさみやき)」は、長崎県東彼杵郡波佐見町で製造される陶磁器のことです。記事が伝えるとおり、最初は自分も「波佐見焼」をどう読むのかすら知りませんでした。九州の有名陶磁器産地の有田や伊万里、或いは唐津に比べると、無名に近い存在だったのではないでしょうか。以前は、陶器市で十把一絡げで売られている印象が強かった気がします。


Hasami Life

波佐見焼」は、2006年から東京で毎年開催される「テーブルウェア・フェスティバル」に出展を始め、今では開場と同時に女性客が集まるブースに変貌したのだそうです(写真・上は2023年のフェスの様子です)。出展指導を依頼されたフェスのエグゼクティブ・プロデューサー・今田功氏が、「カジュアルリッチ」(洗練された豪華な食器よりシンプルで個性的な食器)の潮流到来を予見し、過剰な部分を削り取ったシンプルで美しい食器が「波佐見焼」の主流となっていきました。

数年前に購入した「波佐見焼」の盃には、写真のように、透明な穴がたくさん開いています。高温で焼くと透明になる粘土で穴が塞がれています。丹心窯が手掛ける「水晶彫」という技法なのだそうです。窯元の名前はおろかそんな工夫を凝らした盃だとは露知らず、これまで普段使いしてきました。盃の上下と見込みには伝統的な「青海波」があしらわれています。この盃を買い求めたのは、まさにシンプルで上品な味わいに惹かれたからです。