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『美術の経済』(小川敦生著・インプレス)で知る美術品売買の舞台裏~日本人は美術品を買わない~

最近、立て続けにアートをテーマにした週刊誌や単行本を読む機会がありました。<緩和マネーで爆騰!アートとお金>と題した週刊東洋経済(2021/2/20)は、経済専門誌が特集しているだけあって、市場規模から説き起こすあたり、さすが要を得ています。そもそも、芸術品の良し悪しなど庶民に分かるわけがありません。テレビ東京の「開運!なんでも鑑定団」がお茶の間で人気を博しているのも、「お宝」に値付けがされるからに他なりません。もし、金銭的価値を捨象してしまったら、番組は見向きもされないことでしょう。金銭的価値が高い=芸術的価値が高いという等式こそ、番組の生命線なのです。

先の週刊東洋経済によれば、世界のアート市場規模は7兆円、内訳は北米44%、英国20%、中国18%と続き、日本市場は4%足らずの2580億円と試算されています(実際はその1/4~1/5とも言われます)。経済大国の割りには日本市場は矮小なことが分かります。ジャンル別でみれば、現代アートが53%を占め、印象派を含む近代絵画や古典絵画を凌ぐ存在感を示しています。ZOZO元社長前澤友作氏が123億を投じて話題になったバスキアは、落札金額・落札作品数共にモダンアートの頂点に君臨するアーティストなのです。

美術品を買う際、不透明で素人に分かりずらいのが原価率です。美術品の値段を簡単に因数分解してみましょう。

美術品の値段=原材料費(絵具・キャンバス・光熱費等)+宣伝広告費+運送費+作家の労働対価+芸術的価値(作家の儲け)+消費税

一見、もっともらしい内訳ですが、これに作品を販売するギャラリー(画商・美術商)の取り分が加わります。仮に販売価格が100万円だとすると、ギャラリーの取り分(マージン)は販売価格の4割~5割に相当します。アーティストが主役なら、アート市場の陰の主役は販売価格の50%を搾取(言葉は悪いですが・・)するギャラリーなのです。何とも承服し難いプライシングですが、これがアート市場の現実なのです。作家が直販すればいいようなものですが、著名な画商や一流百貨店で個展を開催することがアーティストの箔付けに一役も二役も買うため、陋習とも言うべきこのシステムから抜け出すのは、ある意味、作家にとって自殺行為なのかも知れません。

美術品購入のために財布の紐を緩めない日本人が大多数の一方で、日本には国公立・私立も含め394館(2020年4月1日現在:全国美術館会議所属)もの美術館が存在し、さながら日本は「美術大国」でもあるのです。小規模な美術館も含めれば2000館近くに達するのかも知れません。こうして、美術館がアーティストの後見的役割を果たしていることは否めません。国・公立美術館の美術品購入予算は税金ですから、本来、市民は購入される美術品に無関心であってはならないのです。最近はカネ余りで国・公立美術館が著名作家の作品を購入することは至難だそうです。購入費が抑えられる現代アーティストに目が向くのも必然です。さらに、美術館を建設したあとも、莫大な維持管理費がかかりますから、美術館の台所は火の車といって過言ではありません。そんな厳しい財政状況下、大阪市にある国立国際美術館が2018年度に16億5千万円で世界的彫刻家アルベルト・ジャコメッティの⦅ヤナイハラI⦆を購入したと知って大そう驚きました。ジャコメッティは好きな彫刻家ですが、1作品に巨額の予算を投じたことは物議を醸しそうです。コレクションを増やせば、その分収納スペースが必要となり、際限がありません。

『美術の経済学』の著者小川さんは、以前『日経アート』誌(日経BP社・1999年休刊)の編集長を務めた経歴の持ち主。同誌が発刊されたバブル期の1988年も今も「日本人は美術品を買いませんね」という美術商の見立ては変わらないのだそうです。

美術品を買わない大多数の日本人のなかにあって、絵画や陶磁器を購入する自分は明らかに少数派です。友人知己とアートが話題に上ることはめったにありません。仮令他人からどう思われようと、自身の審美眼に叶う作品を手に入れ身近に置いて愛でたいという欲求は、車や時計を買うときの態度とさして変わりはありません。ただ、金銭的価値(購入対価)の如何に関わらず、気に入ったもの、長く愛せそうなモノを買うという基本姿勢を貫けば、投機目的でもないかぎり、後悔するようなことは決してないはずです。マンションであれ、戸建てであれ、壁に本物の絵がある暮らしは悪くないと思うのですが・・・

美術の経済 “名画"を生み出すお金の話 (できるビジネスシリーズ)

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  • 作者:小川敦生
  • 発売日: 2020/10/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)