「落語THE MOVIE」にハマる

あっという間に師走。あれこれと今年を振り返っているところです。2月の「菜の花忌」に東大阪にある司馬遼太郎記念館を訪れた際、空き時間を利用して「天満天神繁昌亭」で久しぶりに落語を聴きました。落語に目覚めたのは中学生の頃です。当時、早大教授で落語研究家の興津要さんが編集した『古典落語』(講談社文庫)を読み始めたのがきっかけでした。転職で20代後半に上京するまで、寄席とは無縁。そもそも、地方都市に定席などないのですから。

今年の夏、何気なくテレビの番組表を眺めていて見つけたのが、NHKの「超入門落語THE MOVIE」という番組です。誰しも、日テレの人気長寿番組の「笑点」のような番組を想像するのではないでしょうか。いい意味で浅薄な先入見は裏切られました。

下手な説明をする前に、NHKの番組紹介を引用しておきます。
〈ふだん想像で楽しむ落語の演目を落語家の語る噺に合わせてあえて映像化。完璧なアテブリ芝居をかぶせてみたら…「落語ザムービー」待望の新作をお届けします!〉

案内役は濱田岳さん。落語には大勢の人物が登場します。長屋物なら、熊さん、八っつあん、大家さんでしょうか。高座に上がる落語家がひとりで何役も演じ分ける登場人物を、実際の俳優が落語家のセリフに合わせて演じるという新趣向です。

新作スペシャル「超入門落語THE MOVIE」で披露された落語は、「長屋の算術」と「子は鎹」。前者は初めて耳にする落語でしたが、テンポが良くて大いに笑わせてくれました。貧乏長屋なら兎も角、無学長屋と呼ばれるのを気に掛ける大家(坂東彌十郎)が、住人たち(波岡一喜豊本明長)に算術を教えようとするのですが、最初から最後まで話が噛み合いません。落語家・桃月庵白酒(とうげつあんはくしゅ)さんの畳み掛けるようなセリフ回しに合わせてそれらしく口を動かすのは、名うての俳優陣にとっても大層難儀だったそうです。勉強不足のせいで桃月庵師匠(写真・下)を存じ上げませんでした。東洋経済(2019/12/15)のWEB記事のヘッドラインに<確実に安打を叩きだす実力派落語家>とありました。記者は「細かなニュアンスを演じ分けるセンスと「耳の良さ」を感じる。これは得難い資質だ」と書いています。


写真:橘蓮二

普段なら聞き流す落語ですが、ひとりの落語家が語るセリフに合わせて大勢の俳優が演じる(「当て振り」)のですから、視聴者は自ずとひとりの落語家が披露する高度な話術に気づかされるという寸法です。逆に映像化することで、落語の上手・下手が浮き彫りになるとも言えます。

2016年〜2018年にかけて地上波放送されたこのバラエティ番組、BSプレミアムで復活放送されています。ツボにハマったこの番組の虜になりそうです。