「難民問題」から目を背ける日本人

11月12日放送の「混迷の世紀第12回 難民"漂流"人道主義はどこへ」と題したNHKスペシャルは、あまりに衝撃的な内容で戦慄を覚えました。「難民問題」は、かつてない深刻な局面を迎えています。一方、日本の難民認定数は世界で類を見ないほど少なく、2022年の認定者数はたった202人です。しかも、難民申請が認められるまで平均2年半以上かかるとも言われています。そんなお寒い状況ですから、世界の至る所で「難民問題」が噴出していながら、私たち日本人は「難民問題」から目を背けたままなのです。そもそも、「難民受け入れ後進国」日本においては難民が視界に入って来ないからです。世界では難民の数が1億人を超えたというのにです。

示し合わせたかのように、番組放送直後にカード会社経由で国連UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)協会から手紙が届きました。一部を抜粋してご紹介しておきます。

<緒方さんの活躍された1990年代の比べ、残念なことに世界中で難民や国内避難民は大幅に増え、1億1千万人を超えています。><ロシアとの戦争が続くウクライナ国内では、500万人以上が避難を強いられていますが、UNHCRウクライナ事務所で活動する石原朋子職員によれば、ミサイル攻撃など戦闘が激化しており、零下20度にもなる厳しい冬を迎え、女性や子どもなど弱い立場の人々がさらに追い込まれることが強く懸念されています。><すでに厳しい冬が始まっており、今まさに時間との闘いです。>

下記UNHCRグローバル・トレンズ・リポート2022が示すように、世界で故郷を追われた人々の数は90年代初頭の3倍近くになっています。ロシアのウクライナ侵攻に目を釘付けにされてしまうと、13年目に突入したシリアの紛争やイエメンの内戦をはじめ避難生活が長期化している国々のことをなおざりにしがちです。UNHCRが発信する最新情報は、刻々と変化する世界情勢をウオッチするには大変有益です。

番組の後半、密入国(表現が不適切かも知れません)した移民をルワンダに移送する英国政府の計画をめぐって、国内外で激しい議論がなされていることを知りました。密入国の取り締まり強化を重要政策に掲げるスナク政権が、ルワンダ政府への資金援助(1億2千万£=約225億円)と引き換えに移民をルワンダへ移送しようとする矢先、司法からストップがかかりました。1審とは逆に控訴院が「ルワンダ難民認定制度には欠陥があり、移送された人たちは逃れた祖国に送還され、迫害されるおそれがある」と人権上の問題を指摘して、かかる計画を違法としたのです。15日の今日、英・最高裁が適法か否かの最終判断をすることになっています。英国政府はドーバー海峡を超えるような密入国者による危険な渡航を防ぐためであると強弁しますが、いまひとつ説得力が感じられません。UNHCRが指摘するように、豊かな先進国・英国政府は果たすべき義務を怠っているようにしか見えません。近年、難民の受け入れ厳格化を図るオーストラリアも難民を太平洋の小さな独立国・ナウル共和国へ移送・収容する暴挙に出ています。ナウルへの開発援助と引き換えにです。トランプ前大統領のように声高に自国第一主義を唱える政権が増えているのは、受入国にとって「難民問題」が自国の経済状況や国内世論の動向に照らして、抜き差しならない情況を作り出しているからなのでしょう。

「難民問題」に真正面から取り組んでいない日本(日本人)が、軽々に英国政府やオーストラリア政府を批判するのは間違っています。しかし、本人の意志を無視して難民をモノのように勝手に第三国へ移送するのは、「難民問題」の根本的な解決から程遠いように思えてなりません。

今、私たち日本人が出来ることは限られています。UNHCRの防寒支援に少しでも協力できるよう周囲に呼び掛けたいと思っています。