人類への警告〜映画『復活の日』(1980年)と新型コロナウイルス禍〜

政府の緊急事態宣言発令でますます縮こまった生活が続きそうです。話題作『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 』を観ようと思っていたら、映画館も休業。当分、amazon prime videoやwowow で凌ぐしかありませんが、しみじみとネット配信時代の有難みを感じています。

最近、新型コロナウイルスの世界的拡散を予言したような映画『復活の日』(1980年)を視聴しました。興行的には芳しくなかった英語版タイトルは”Virus”だそうです。原作者は、代表作『日本沈没』で知られるSF作家の小松左京。角川文庫所収の原作初出は1964年というから驚きです。しかも当時、作者は海外渡航歴なし。アメリカ文化センターに通い、「サイエンス」などの科学専門誌を漁り情報収集に努めたのだそうです。

初めは「イタリア風邪」と呼ばれ、局地的な新型ウイルスの拡散と思われていましたが、瞬く間に世界に拡大。やがて、ウイルスの正体はMM-88という極秘に開発されていた細菌兵器だったことが分かります。最強国家アメリカ合衆国オーバルオフィスに集まった閣僚や軍最高幹部は対策に頭を抱えます。テレビで報道される各国の救いようのない窮状を見た大統領は、スイッチを切るよう命じます。もはや打つ手なく、大統領は南極のパーマー米国基地に電話、隊員に対して南極に留まり命を存えるよう指示して絶命します。

零度以下だとMM-88は増殖できないため、南極大陸だけが人類最後の砦となったのです。各国の南極基地のスタッフも猛威を奮うウイルスで世界が滅亡しかけていることに気づきますが、その場に留まるしかありません。艦内に感染者を抱えたソ連原潜が基地への寄港を要請しますが、受け容れるわけにはいきません。付近を航行中の英国原潜が寄港を強行しようとするソ連原潜を排除、感染者がいなかった英国原潜は南極への上陸を許可されます。

南極の食料等の備蓄は2年余り。人類存亡の危機を乗り越えるため、南極連邦政府が樹立され、各国の代表者はわずか8名しかいない女性の性交渉を管理することになります。このあたりは現実論として少し飛躍があるよう思いますが、ノアの方舟を彷彿とさせます。残された人類は863名でした。

さらに次なる危機が世界を襲います。ARS(Automatic Reaction System)と呼ばれる米国自動報復装置が巨大地震で作動し、核戦争が勃発するという事態が切迫していたのです。米カーター少佐と地震予知学者のヨシズミ(草刈正雄)は南極を離れ、ワシントンDCに向かいますが、時遅しで核ミサイル発射を食い止めることはできませんでした。カーター少佐は破壊工作で被弾し、ヨシズミに“Life is wonderful”は日本語で何と言うのか訊ね絶命します(素晴らしき哉人生とでもすればいいものを吹替は「人生とは良いものだ」でした)。人類は2度死ぬことになります。

数年後、ワクチンが効いてかろうじて生きながらえ南をめざしたヨシズミは、チリ南端の海岸に辿り着き、南極最後の日に一夜を共にしたノルウェー隊のマリト(オリビア・ハッセー)と再会、生き残った隊員らは歓喜します。

2011年の東日本大震災で一部の学者から指摘されていた巨大津波に襲われ発生した東電福島第一原発事故、そして今回の新型コロナウイルス禍。巨大地震原発事故・新型ウイルス蔓延そのすべてが、1964年当時、小松左京により未来予想図として提示されていたことになります。恐るべき作家の想像力というしかありません。これに対して、東日本大震災も含めこれまでの日本政府の対応を見ていると、地震予知や医療態勢などサイエンス全般に無定見だったことは明らかです。御用学者の存在も災いして、不都合な真実に目をつぶる行政の姿勢は今も一向に改まりません。

今回の新型コロナ禍は、飽くなき経済成長をめざす人類へのまったなしの警告のよう思えてなりません。特に2020年の東京オリンピック開催にこだわり続けた日本政府・東京都の新型ウイルス対策への遅れは致命的でした。

かつて、ブッシュ政権地球温暖化など学問上の仮説に過ぎないと切り捨てました。昨年9月、地球温暖化問題はでっち上げだとするトランプ大統領は、昨年、スウエーデンの環境活動家グレタさんをからかうツイートで物議を醸しました。次に待ち受けるのは間違いなく地球温暖化による人類滅亡のシナリオでしょう。シベリアの永久凍土や海中のメタンハイドレード(メタンガスの一種)が溶けだすと、CO2の数十倍のメタンガスが大量に放出され地球温暖化は急加速すると言われています。人類に残された時間は10年から20年だとする科学者の警告は、未だ世界の指導者たちの心胆寒からしめるに十分ではないのでしょうか。

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