<木喰上人自身像>が我が家にやって来た!

博物館や美術館で気に入った展示品を見つけると、必ずミュージアムショップでそのレプリカがないか確認することにしています。といっても、洋の東西を問わず、絵画のレプリカには一向に興味が湧きません。最近の高精細印刷の図録で至極満足しているからです。

一方、仏像をはじめ彫刻やオブジェと呼ばれる立体作品の傑作に出会うと、レプリカを手元に置いて愛でたいという欲望がむくむくと頭を擡げてきます。学生時代、大英博物館を訪れたとき、真っ先に買い求めたのはミニチュア<ロゼッタストーン>でした。貧乏学生ですから安っぽい土産物だったはずです。

社会人になって少し経済力がついて来ると、俄然、精巧なレプリカが欲しくなります。歴史的には、レプリカ(replica)は製作者自身が作成した「複製品」のことを指していたようですが、最近は製作者かどうかを問わないケースが増えています。博物館ではレプリカと断って作品を展示しているケースが多々あります。オリジナルを長期間にわたって展示すれば、温湿度管理が行き届かなかったり照明で劣化してしまう可能性があるからです。3Dプリンターが登場し、コストと時間を大幅に削減した精巧なレプリカ作りが可能になったことは大いに歓迎すべきです。

つい最近、リアルな仏像を手掛ける「イスム」直営・表参道店から、2023年版の「仏像ワールド」の総合カタログが送られてきました。興福寺の<阿修羅像>を皮切りに、<空也上人立像>、木喰仏の<地蔵菩薩像>と3体を購入したこともあって、ときどきお店を覗くことにしています。カタログに掲載されていた木喰上人生誕300年を記念して制作された4体のうちのひとつ、「木喰上人自身像」の穏やかな笑みにすっかり魅了されてしまいました。

遊行僧と言えば、全国各地を遍歴し生涯で12万体の仏像を彫った円空(1632年~1695年)を思い浮かべる方が多いかも知れませんが、木喰上人(1718年~1810年)も全国を行脚し、訪れた先で一木造りの仏像を刻んで奉納したと伝わります。最初に我が家にやってきた木喰仏は日本民藝館所蔵の「地蔵菩薩」(写真下・右)。民藝の創始者柳宗悦が山梨で最初に出会って、木喰仏再評価のきっかけになった記念碑的作品です。同館の2階のショーケースの片隅に陳列された「地蔵菩薩」を初めて見たときの新鮮な感動は忘れもしません。京都の古刹で出会う立派な仏像とは凡そかけ離れた存在ですが、庶民に寄り添うように合掌する姿に親近感さえ覚えます。

木喰上人の自身像は15体現存しているそうです。リビングの「地蔵菩薩」の傍らに鎮座することになった「木喰上人自身像」が、東京国立博物館に所蔵されていることを知りました。制作年は1804(享和4)年、最晩年の作品だと分かります。トーハクの画像検索でヒットした実物(下)と見比べてみて下さい。「微笑仏(みしょうぶつ)」と呼ばれる木喰上人の最高傑作のひとつではないでしょうか。

原型は仏師・藤田耀憶氏が手掛け、檜の一木造りで300体制作されています。その数だけ木喰仏の微笑が家庭やオフィスに届いているはずです。我が家のエディションNoは26/300です。お寺や博物館に足を運んだとしてもいつでも拝めるわけではない仏像を身近に置ける歓びは計り知れません。単なるインテリアの範疇を超えて、仏さまに宿る霊性と触れ合う機会を授けてくれるリアル仏像は自分の心を映す鏡にも思えてきます。好きな仏像をみつけて、仏像のある暮らしを始めてみませんか?