知的財産権をテーマにしたドラマが面白い!

日テレの水曜ドラマ「それってパクリじゃないですか?」を録画して視聴しています。視聴率は超低空飛行を続けているようですが、知的財産権(以下:知財)をテーマにしたこれまでになかったエンタメだけにもう少し注目されてもいいのではないかと思っています。

ドラマのジャンルで好まれるのは謂わば非日常の世界。警察署、病院、裁判所・・・可能なかぎり関わりたくない世界だけにその内実はヴェールに包まれています。知財を専門に扱う法律家はパテントローヤー(Patent Lawyer)と呼ばれます。以前、当ブログでTVドラマ『下町ロケット ゴースト』に登場した神谷弁護士を取り上げたことがありますが、当時(2018年8月)から弁理士の数は殆ど変わっていません。2022年3月31日現在、日本弁理士会会員はわずか11653人(内弁護士は438人)です。理系出身者が8割弱を占めています。

第6話が面白い問題提起をしています。主人公亜季(芳根京子)が勤める「月夜野ドリンク」は大学研究室と共同で新しい炭酸飲料の開発に取り組んでいます。研究室に在籍する院生は学会でいち早く研究成果を発表したい。一方、研究資金を提供している「月夜野ドリンク」としては、特許出願まで院生の学会発表を見合わせてもらいたい。金儲けに無関心な大学研究室と企業との間にありがちな軋轢です。

ドラマを見ながらQRコード開発をめぐる逸話を思い出しました。日常生活に不可欠なQRコード(決済)を開発したのは、デンソーウェーブという日本企業です。れっきとしたデンソー(旧:日本電装)の子会社です。同社は特許を保有しながら権利行使しないという特許戦略を選択し、QRコードをより広く普及させる挙に出たのです。技術をオープンソース化して開発中のスキャナーで利益を上げようという目論みでした。その目論見どおりQRコードは現金払いに代わる有力な決済手段になっています。特許の存続期間は出願日から20年と定められていますから、やみくもに特許出願をめざす戦略が正しいとは限らないのです。

月夜野ドリンク」の社運を賭けた新製品「カメレオンティー」の製法は営業秘密扱いとし、敢えて特許出願しない方針が明らかにされました。こうした秘密主義はドラマで紹介されたケンタッキー・フライド・チキンのレシピだけではありません。クローズ戦略を選択したコカ・コーラ社の原液成分のレシピは今なお企業秘密になっています。社長と副社長しか知らないまさにトップシークレットです。

ビジネス最前線において特許出願が最善の策だと思っていたのでQRコードをめぐるこうしたエピソードは目から鱗でした。第4話では商標登録をめぐり、登録を強行した「月夜野ドリンク」のライバル会社が社会的に指弾される事件が取り上げられています。ライバル会社はSNS上で大炎上を招き、著しく企業イメージが失墜してしまいました。縄文マニアの間で人気のキャラクター「ツキヨン」を商標登録で独り占めしようとした行為が却って仇となったわけです。<「ツキヨン」は皆んなの物(公共物)であって誰に帰属するものではない>と主張したブームの火付け役・ドキドキ土器子の声に真摯に耳を傾け、商標登録を見送った主人公・亜季の無欲の勝利でした。

大学時代、知財分野の講義を受ける機会は皆無でした。現在、母校には知財専門の教員が配置され、知財法は選択必修科目になっています。6割程度が履修していると云いますから、盛況の部類ではないでしょうか。講義内容は、不正競争防止法、商標法、特許法著作権法といったところです。必修科目の黴臭い講義より遥かに関心を引く内容です。法学部でリカレント教育を受ける機会があるとすれば、断然、知財を学びます。