畏るべき近未来予知ドラマ『アウトブレイクー感染拡大ー』

最近、アマゾンprime videoで視聴可能になった『アウトブレイク』(全10話)を観てびっくり仰天しました。制作時期を知らなければ、間違いなく、新型コロナウイルスの感染拡大に着想を得て製作されたドラマだと誤信してしまうところでした。実際の撮影は2019年8~11月に行われ、カナダで2020年1~3月に放送されたのだそうです。放送中に、世界を震撼させることになる苛酷な現実がドラマを追いかける展開になったわけです。

ドラマの舞台はフランコフォニー(フランス語圏)のカナダ・ケベック州モントリオール。原題は"Épidémie"(英題:"Outbreak")になります。ウイルスは「CoVA」と名付けられ、瞬く間に街中に蔓延していきます。新型コロナウイルス感染拡大によって世界中で今現実に起こっていることが、ドラマのなかで寸部違わず、先取りされているのです。カナダでこのドラマをリアルタイムで観ていた人はデジャヴュ(既視感)に囚われたのではないでしょうか。カナダでドラマが社会現象になったのは至極当然の成り行きです。医療をテーマにした海外ドラマ(特に米国)のクオリティの高さを改めて見せつけられました。

マスク不足に乗じた闇商い(病院備蓄マスクの横流し)、感染者の厳重隔離、院内感染の恐怖、病床の不足、医療従事者の疲弊、風説に基づく感染者への露骨な差別など、ドラマで次々と起こる出来事はまさに現在進行形の現実そのもの。製作スタッフの炯眼と畏るべき予知能力を手放しで褒めるしかありません。感染症の実相について周到なスタディがなされていたのでしょう。

未知の感染症という難しいテーマに真向から取り組みながら、先住民族イヌイット*の問題も取り上げ、夫婦、家族、友人、職場の同僚の間の錯綜する人間関係を巧みに織り込み、『アウトブレイク』は一級のヒューマンドラマに仕上がっています。シリーズ2を待望する声が上がるのも無理はありません。

(注)イヌイット:以前はエスキモーという差別用語で呼称されたツンドラ地帯に住む先住民族