マクロン大統領の公的年金制度改革に抗議するフランス人

先月23日、年金受給年齢引き上げを軸とする仏・公的年金制度改革に抗議するデモにフランス全土で110万人が参加したと報じられました。暴動が起こり治安部隊との衝突が相次ぎ、チャールズ英国王の訪仏が延期されたくらいですから、国民から凄まじい反発があったのでしょう。

フランスにおける公的年金制度改革の骨子は段階的に受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げることです。我が国で年金受給年齢が60歳から段階的に現行の65歳まで引き上げられたのは2000年の法律改正に遡ります。当時、大規模な抗議活動があった記憶はありません。

超がつく高齢化社会の到来に伴う公的年金制度改革は先進諸国共通の課題です。フランス政府が年金財政を健全化するために受給年齢を引き上げたのは当然の措置と云えます。現に欧州の盟主ドイツやイタリアの年金受給は67歳スタートです。冷静になって考えれば、待ったなしのこうした状況下において、強行採択に訴えたフランス政府の態度は支持されて然るべきです。

近い将来、仮に日本で受給年齢が70歳に引き上げられることになっても、日本人の多くは「60歳以降も働けばいい」と考え従容として受け止めるのではないでしょうか。一方、バカンス天国フランスでは60歳を超えて働く人は極めて少数派です。近年、日本の企業やお役所でようやく注目されるようになった「ライフ・ワーク・バランス」は、フランス人にとって至極当たり前の話なのです。有給5週間が法定されているフランス社会では、夏場に長期休暇を取得して人生を謳歌するライフ・スタイルが定着しています。しかし、フランス人は働きたがらないというわけでは決してありません。フランスの生産性は欧州随一と反論する研究者も存在くらいですから。従って、余暇を楽しむ国民性と相俟ってリタイアメント・ライフの根幹を揺るがす受給年齢の引き上げは、フランス人にとって俄かに容認できるものではないのです。

政治に辟易し辛抱することに慣れた日本人とは決定的に国民性が違います。燃料税増税に端を発した「黄色いベスト(ジレジョーヌ)運動」然り、フランス人の社会参加・政治参加の意識は筋金入りです。サルトルが提唱したアンガージュマンは脈々と受け継がれているのです。食生活の改善や医療の進歩で寿命こそ延伸しましたが、人生のなかでリタイアメント・ライフを満喫できる時間は存外少ないことをフランス人はよくわきまえているに違いありません。